夢トリップ主人公??


03〜04あたりの話。
※幼いルッチさんの口調や性格は捏造です。

暖かい日だったと思う。
洞窟でうとうとしていると、いつものように小さなお客様が来た。ルッチ君だ。

暇そうなナマエのために本を持ってきた、と言ってルッチ君が寄越してきたのは絵本だった。
25歳の男に絵本をチョイスしてくれるなんてなかなかのセンスじゃないか。まぁルッチ君はしっかりしてるが幼い。まだまだ絵本にお世話になっている年頃なのだろう。だから仕方ないか。
そう思っていたが、俺の隣に座ったルッチ君が読み始めたのは分厚い歴史書だった。

え?俺ルッチ君に何歳だと思われてるの?

本と向き合うルッチ君は顰めっ面をしている。
どうやらこの子は集中すると眉間に皺を寄せてしまうようだ。
なんとなく、肉の寄ったその眉間を押してみる。

むに。

「!?」

ルッチ君は突然のことで動揺したのか、ロボットのように固まってしまった。

むにむにむに。

しばらく突いているとやがて俺の指をルッチ君が掴んだ。

「……何してる」
「いやぁ、眉間に皺よってるなぁって」

今は若いから良いけど、いつかシワになっちゃうから顰めっ面はやめた方がいいよ。
俺がそう言うとルッチ君はむぅと口を尖らせ眉間をさすった。
そうして、俺は顰めっ面なんてしていないと、顰めっ面をしながら反論してきた。

「じゃあ今日一日、ルッチ君が顰めっ面するたび眉間を突きます」
「フン楽勝だな」

そう言ってルッチ君は再び読みかけの本に目を向けた。

ルッチ君が今読んでいる本はこの世界の歴史が書かれているらしい。
立派なサイファーポールになるためルッチ君は訓練だけじゃなく座学も一生懸命学んでいる。勉強家だ。

暇なので俺も本を覗いてみたがさっぱりだ。やっぱりルッチ君が用意してくれた絵本を読むことにしようかな。
そもそもルッチ君が読んでいる本に書かれている内容は、昔オハラという島にトリップした時に聞いた話と何か違う気がする。特に世界政府関連の歴史が全然違うような……。
しかしまぁ歴史って新たな発見があるたびコロコロ変わるもんだしな。

むに。

俺が顔をあげると、俺の眉間に人差し指を突きつけ得意げな表情をする少年と目があった。

「ルッチ君……」
「眉間に皺よってるぞ、ナマエ」

うーむ。まいった。
俺も無意識に眉を顰める癖があるみたいだ。

「人のこと言えないな」
「おっしゃる通りです……」

でもルッチ君はまだまだ若いから今から気をつければその癖もきっと治せるよ。

「よぉしおじさんがほぐしてやろう」
「?」

俺はルッチを膝に座らせると後ろから手を伸ばし眉間を押し始めた。

「何だこれは」
「フェイスマッサージですお客様」

俺はルッチ君の眉周りを指で適当にペチペチ叩いたり眉間の皺を伸ばしたりした。
ルッチ君は最初はモゾモゾと居心地悪そうにしていたが俺がもう片方の手でルッチ君の頭を撫でると、体の力を抜き俺の胸に頭を預けるようになった。
洞窟の外は優しい陽が降り注いでいる。適当なマッサージも相まって幼いルッチ君は眠たくなってきたようだった。

「お客様、痛いところありませんかー?」
「ない。俺は、強い……」

相変わらずズレた回答するルッチ君は夢見心地だ。
……そろそろおねむの時間だな。

俺はお終いとばかりに最後にルッチ君のほっぺに自分の頬をくっつけた。
ガルチューというやつらしい。昔どっかの島で変な動物にされたことがある。

そうして膝枕をしてやろうとルッチ君を寝かせようとした。
しかしルッチ君は微動だにしない。
不審に思いルッチ君の顔を覗くと、ウトウトしていたはずのルッチ君は目を見開いていて顔が真っ赤になっていた。

「ルッチ君?」
「何だ今のは」
「?ガルチューのことか?」

なんかどっかの島の挨拶らしいよ、と俺がいうとルッチ君は眉間に皺を寄せて何か考えはじめた。
眉間をむにむにしとこう。

「……他の人にしたことあるのか」
「いやないよ」
「じゃあ俺以外にしちゃ駄目だからな」
「え〜どうしよ痛い痛い痛いわかったわかった!」

俺のお返事に満足したのか、ルッチ君は俺の膝にごろんと頭を乗せ眠り始めた。


そうしてルッチ君が起きたころにはもう夕方だった。
寝起きのルッチ君はしばらくぼんやりしていたがやがてハッとした顔をした。
その慌てぶりに思わず声を掛けるとルッチ君はもじもじしながら白状した。

「明日課題の発表があるんだが、やるの忘れてた……」

テスト前日の俺みたいだぞルッチ君。

「どんな課題?」
「架空の人物を考えて生い立ちを発表する」
「斬新な課題だね」

何だろう。俺も常々、架空の脳内彼女とのアレコレを妄想しているがそれを発表するとか絶対嫌だ。
俺が恐れ慄いているとルッチ君が補足してくれた。

「潜入捜査をする時、身分を偽るかもしれない。だから今のうちから色んな人物像を作り上げられるよう訓練するんだ」
「へぇ……」

歪んでるなぁ。
やっぱり俺、サイファーポールに良い印象が持てないよ。

「でも存在しない人間なんて全然思いつかない」
「なるほど」

ルッチ君まじめだからなぁ。

「0から1を作るのは難しいよ。だから1から1を作ったらどうかな」
「?」
「実在する人間を元に改変していくんだよ」
「それじゃあ架空の人物じゃないだろ」
「嘘っていうのは真実を織り交ぜたほうがそれっぽくなるんだよ」

俺はなんかどっかで聞いた言葉をルッチ君に言ってみる。だがルッチ君は納得したのか乗り気になってくれた。

「例えば誰か思い浮かべてみて」
「うん」
「そいつは男?女?」
「男」
「そいつの趣味は?」
「日向ぼっこ」
「そいつの性格は?」
「鈍感」
「……ルッチ君、そいつの名前は?」
「ナマエ」

だよね。なんとなくわかってました。

「あぁもうおじさんが元でいいよ。おじさんを改造して別の人間を作ろう」
「わかった」

そうして俺たちは、ナマエver2.0を考えることにした。

「おじさん昔サーフボード買ったんだよ。家に飾ったままだけど。だからサーフィンが得意ってことにしてほしいな」
「駄目だ。俺たちにサーフィンの知識は無いんだぞ。そんな特技にしたら教官に突っ込んだ話をされたとき何も答えられない」
「えー。俺とルッチ君の共通の知識ってござ編みくらいしかないよ」
「じゃあござ編みが特技だ」

ダサすぎる。ルッチ君のお友達の前でナマエver2.0の特技はござ編みですとか発表されちゃうの?やだよ……。

「じゃあ好きな食べ物は?これは自由でいいよな。ステーキとか……」
「牛乳とパンだ」
「うん……」
「人間関係は決めさせてやる」
「あ、じゃあ恋人欲しいです。黒髪ロングで美人な子がいいです」
「恋人はいない!」
「決めさせてよぉ……」

そんなこんなでナマエver2.0の人物像はどんどん決まっていった。

「じゃあおさらいだ」

ナマエver2.0が完成する頃にはもうすっかり夜になっていた。
締めくくりにルッチ君が決定した内容を発表し始める。

ナマエver2.0の特技はござ編み。好きな食べ物は牛乳とパン。独身。
とある島でカフェのオーナーを務めている。
旅行が趣味で月末になると色んな島を訪れ、訪れた場所に点数を付けるのが趣味だった。
しかし6年前から足を悪くし、それからは店の2階を自宅に改装しそこに引き籠っている。
以来店の事はほとんど甥に任せきりである。

うん。特に面白みもない経歴だ。しかしまぁ人の人生なんてこんなもんだろう。
実際の俺はコンビニ店員で、色んな島に不本意なトリップをして、2年前から洞窟に引き籠ってルッチ君に頼って生きている。
そんな奇想天外な人生よりよっぽど現実味がある。事実は小説よりも奇なりだ。

そうして架空の男は"AAA"と名付けられた。

「じゃあルッチ君、発表会頑張れよ」
「わかった」

帰り際、ルッチ君は両手を伸ばしてきた。
かがめと言われたので屈むと、ルッチ君は俺の肩を掴んで背伸びをするや俺の頬に自分の頬をぶつけてきた。
そうしてルッチ君は顔を真っ赤にして走って行ってしまった。
だから俺はルッチ君の背中に向かって叫んだ。

「ガルチュー!ガルチュー!」
「バカバカ!うるさい!」

遠くからルッチ君の怒鳴り声が聞こえたので笑った。




後日結果を聞くとルッチ君の課題は大成功だったらしい。
幼い子が考えたにしては人物設定がリアルだったため、ルッチ君の周りで架空のおじさん"AAA"は大変な話題になったそうだ。
まぁ実在の人物がモデルですからね。

ルッチ君曰く、夢の中でAAAを見たという子供が続出したらしい。
そうして訓練をサボるとAAAに点数を付けられるとか、0点になったらAAAが攫いにくるとか、AAAは"剃"より早く動いて子供を捕まえるとか、子供たちの間で色々話が膨らんでいるそうだ。

いやなんで都市伝説になってんだよ。


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