デレデレ主人公04


03の数日後。ヒエヒエ人間と出会う。(一部関係捏造)

「ナマエ」
「あ、ロブさん、おはようございます。ハットリもおはよう」
「早いじゃねェか」
「ポッポー!」

小さな公園のベンチに腰掛けていると、向こうからロブさんとハットリがやってきた。
あれからロブさんの肩にはハットリがいることが多くなった。ハットリがいるとロブさんの怖さが若干緩和されるし、2人きりで気まずい時は良い潤滑油になってくれるので俺としても助かる。
心なしかロブさんも機嫌が良さそうに見える。

「今日はいつもより早起きしたので」
「いつも早起きしろ」

いつもはロブさんとのデート(なんだと思う)に遅刻ギリギリでやって来る俺だが今日は違う。
今日はこの島の海軍基地設立の35周年記念を祝うパレードを観に行くのだ。海兵たちが楽器を演奏したり、軍艦の中に入れたり、中将たちが悪魔の実の能力を披露してくれるらしい。
俺はこの催しが大好きだった。子供の頃から毎年、軍艦内の大砲と記念撮影をしているのだ。
だが、今年はハリケーンのように俺を振り回す恋人がいるため参加出来るか不安だった。隠れて参加しようとしても絶対にバレてしまうだろう。この日だけは、わけのわからない場所に連れて行かれたくない。

今日という日をどうしても邪魔されたくなかった俺は、ならばいっそとロブさんをパレードに誘ってみることにしたのだ。ロブさんは暫く沈黙していたが、お前が良いのならと承諾してくれた。どうしてかシルクハットで顔を隠していたため表情は分からなかったが、声色から察するに怒ってはいないようでホッとした。

「じゃあ行きましょうか」
「あァ」

こうして俺たちはパレード会場の港へ向かうことにしたのだ。




「ふぁぁ……疲れた。でも楽しい……」

午前のイベントが終わり、俺たちは外れの港で小休憩をしていた。
やはり、海兵たちの演奏はなかなかだった。軍艦も、大砲も格好良かった。
長蛇の列を嫌がったロブさんの圧力に負け、大砲と記念撮影出来なかったのが心残りだ。

「まさか双眼鏡まで持ってくるとは。随分な気合の入れようだな」
「だってじっくり見たいじゃないですか。ハットリみたいに飛べたら楽なんですけど……」
「ポ?」

そう、海兵の行進や演奏を遠くからでも見れるよう、俺は双眼鏡を持参していた。
一応、二つ用意したのだがロブさんは頑として受け取ってくれなかった。ちょっと引いていた。
なんとなく目の前の海を双眼鏡で覗くと、遥か向こうの海上に自転車を漕ぐ男が見えた。男の足場だけキラキラと輝いている。あれは……?

「あれは海軍最大戦力の1人、大将青キジだ」
「えっ初めて見た」
「悪魔の実の能力者だ」
「悪魔の実の能力者!」

ロブさんは双眼鏡なしでも男が見えるらしい。青キジといえば確か三大将の1人だ。
どういう仕組みか知らないが悪魔の実で海の上を渡れるのだろう。
今日は中将達が悪魔の実の力を披露するイベントがあるが、サプライズで大将が呼ばれたのだろうか。肉眼でもしっかり見えるようになった男に手を振ると、男はこちらへ自転車を漕ぎ始めた。

「でかっ」

やがて近づいてきたのは3mくらいの大男であった。ロブさんも大きいが、その男はさらに大きかった。
ビキビキと海を凍らせて足場を確保していた。なるほど、だから海の上を移動できるのか。

「あららら。何してんのこんなトコロで」
「何も」
「何もないならお前がいるわけないでしょーが」
「ただの休暇ですよ」

青キジとロブさんは知り合いなのだろうか。俺の頭上で世間話が始まった。
正確には青キジが一方的に話しかけているだけでロブさんは青キジが投げてきた言葉のボールをポイポイと捨てていた。ただ案外丁寧な口調で青キジに接していて、そんなロブさんは新鮮だった。
やがて青キジは面倒くさそうに頭をかくと俺の方を指さした。

「あー……あれだ……まぁ良いや。ところでこっちは誰?新人?」
「一般人です」
「あ、そうなの」

間髪いれずロブさんが答える。
確かに一般人だが、ざっくりしすぎじゃないだろうか。青キジもそれで納得したようだったので俺は何も言えなかった。

「さっき、俺に手ェ振ってたよな」
「は、はい!会えて嬉しいです。ナマエって言います」
「あーハイハイ。よろしく」
「今日のイベントに参加されるんですか?楽しみにしてます!」

ここぞとばかりに話しかけると青キジはヒラヒラと手を振ったが一拍置いて、イベント?と聞き返してきた。
俺がイベント内容を説明すると、青キジはあららと呟いた。どうやらイベントどころか今日この島でパレードが行われることすら知らなかったようだ。

「そうか……面倒な時に来ちまったな。よしお前ら。今日俺と会ったことは……あーなんだ……」
「海兵に報告しておきますね」
「やめろって」

黙っててくれと青キジはロブさんに念を押すと俺に向かって話しかけてきた。

「ナマエだったか……この島の住民か?」
「はい」
「腹減ってんだけど。この島で海兵や客が少なくて良い感じの店ってある?」

任せてください!



「ナマエ」
「はい」
「お前は客の少ない店を聞かれて自分のバイト先を紹介するのか?」
「はい!」

案内した店は俺のバイト先だった。
だって客が少ないのは事実だ。平日の、しかもパレードがある今日なんてメインストリートから何本も外れたこの店に客が来ることなんてないだろう。実際、訪れてみたら店長しかいなかった。
ロブさんは呆れていたが、青キジは良い感じの店じゃないのと言ってくれたから問題ないはずだ。
ひとまず3人でカウンター席に座る。

「ふーん、バイト先なんだ。ならおすすめとか教えてよ」
「これですかね」
「あー……じゃあそれのセットにしようかな」
「セットで頼むよりこっちと組み合わせた方が安くなります」
「へぇー。良いじゃない。ならそれで」

俺は店の収益より海軍大将の財布の味方である。
裏技メニューを注文すると店長はものすごく嫌そうな顔をして厨房に引っ込んだ。

「ロブさんはどうします?」
「……ここで食べるのか?」
「ちょうどお昼ですし、良いかなって……」

ロブさんはどうするか聞くと、店長と同じくらいすごく嫌そうな顔をしていた。
ここで食べたくないんだろうか。

「大将青キジがいる」
「何、俺居ちゃダメなの?」
「でもここ以外に客のいない店なんて……」
「大将青キジはここに置いておけばいい。俺はここ以外ならどこでもいい」
「ちょっとちょっと。お前ら色々と失礼じゃないの」

顔見知りのようだし仲が良いと思っていたのだが、そうでないのだろうか。
青キジが俺とロブさんを諫めていると、やがて厨房から出てきた店長が俺を睨みながら料理を持ってきた。

「美味そうじゃないの」
「メインもすぐにお持ちします」

店長はそう言ってから俺をまた睨み、厨房に消えていく。
それと同時にロブさんが立ち上がった。ロブさんは青キジを睨みつけている。

「こんなところさっさと出るぞ」
「えっでも青キジさんがまだ食べてますし」
「案内を頼まれただけだ。待つ必要はない」
「でもせっかく大将青キジに会えたんだし……」
「お前は俺とそいつ、どっちが大事なんだ?」
「そういう話じゃないですよ」
「そういう話だろうが」
「お前らの会話、なんか痴話喧嘩みたいだな」

修羅場か?青キジはそう言うと大きな口にどんどん料理を運んでいった。
確かにロブさんは面倒な彼女の様な男である。

「行くぞ」

とうとうロブさんに腕を掴まれ、いつものようにずるずると引きずられる。

「さよなら!青キジさん!」
「あららら……またいつかね」

店の扉が閉じる瞬間、青キジは苦笑いしながらこちらへ手を振ってくれた。




「……あの……どうします……?」
「…………」
「あの……」
「…………」

青キジと別れた後、ロブさんはずっと無言だ。
よく考えたら俺たちは一応恋人同士で今日はデートなわけだ。ロブさんはデレデレビームのせいで俺のことが本当に好きなのだ。第三者と飯を共にしようとした俺は酷い奴に映っただろう。
もうすぐ中将たちのイベントが始まるが、この様子じゃ見れないだろうな。


「おい」

掴まれたままの腕を見ながらぼんやりしているといつの間にパレードの会場に戻ってきていた。

「あ、あれ?」
「もうすぐイベントが始まる」

楽しみにしてたんだろう?と前を向いたままロブさんが言った。俺は何とも言えない気持ちになった。
何だろう。罪悪感かな。あったかいようなギュっと締め付けるような訳のわからない感覚。
やがてはじまった中将たちのびっくり人間コンテストは大盛況だったが、俺の心はもう別のところにあった。

「あのさ」
「……」
「屋台巡らない?今なら空いてるだろうし。それでさ、食いたいもん全部買ったらあの公園で食べようよ。パーッと!二人っきりでさ」

しまったなんか恥ずかしい。しかもタメ口になってしまった。
俺は慌ててハットリも!と付け足した。

「焼きトウモロコシとかならハットリも食べれると思うんです」
「ポ!」

ロブさんは少し目を見開きポカンとしていたが、一度帽子を深くかぶるとやがて意地悪そうな顔で軽口を返してきた。

「ナマエ。お前どれだけ腹減ってんだ」

毎年、軍艦で大砲と記念写真を撮る俺だったが、どうやら今年は公園で恋人と記念写真を撮ることになりそうだった。


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