デレデレ主人公05


04の翌日。ヒエヒエ人間と再び出会う。ルッチさんは出てきません。

「あ」
「ん?ナマエじゃないの」

シフトを終えた後輩ちゃんと交替してスタッフルームから出てくると、カウンター席に大将青キジが座っていた。

「青キジさん、また来てくれたんですね」
「この店の虜になっちまってね。人が居ないっていうのが一番のポイントだな」
「店長が聞いたらブチギレそうですね」
「何、あの人店長なの?店主じゃなくて?」
「店長です。オーナーは上の階に住んでるみたいです」

フゥンと気のない返事をしながら青キジは水を飲んでいた。空っぽになった皿が置いてあるのでもう食事は終わったのだろう。
カウンター越しに腕を伸ばし食器を片付けようとすると突然腕を掴まれた。

「あ、あの……?」
「ナマエ……お前と仲の良い男がいるだろう」
「えっと……ロブ・ルッチさんですか?」
「そうそう、ロブ・ルッチだ。俺にはロブ・ルッチが、お前に友情以上の好意を抱いているように見えた」

どういう関係なわけ?と聞いてくる青キジは真剣な表情をしていた。

「あのさ、はっきりいってロブ・ルッチは愛情どころか友情……そもそも情があるのかも怪しい、そういう男なんだよ。まァ俺も奴を大して知らないがな。少なくとも男……ましてやお前みたいな善良な一般市民を好むような奴じゃねェ」
「はい」
「弱みでも握られてるなら手ェ貸すけど?」

命は狙われているが弱みは握られていない。どう答えて良いか分からず俺は曖昧に笑った。

「……それともお前があいつに何かしたのか?」
「!」

俺を掴む青キジの手がゆっくりと霜に覆われていく。同時に掴まれている部分が冷たくなる。
俺凍っちゃうのかな。
善良な一般市民は当然こんな脅しに慣れていない。俺が怯えて号泣しだすと青キジは慌てたように手を放した。

「わかったわかった!今のは俺が悪かった!お前はどう見ても無害そうだよな、うん」
「うっうううう……ずびっ」

青キジはその長い腕をにゅっと伸ばし、カウンター越しに俺の頭をワシワシと撫でた。

「あー……なんだ……怖がらせちまったな」
「ち、ちがっ……違うんです……ずずっ」
「いいからいいから。落ち着きなさいよ」
「あのっ!ぢ、違うんですっ……俺が……俺がやりました!」
「は?」

俺の自白に、青キジは一瞬目を丸くしたがすぐに真剣な顔になった。

「どういうことだ?」

そうして俺は号泣しながら事の次第を話始めた。


「デレデレの実ねェ……」

カランと音を立てコップの氷が溶ける頃にはもう俺も落ち着いていたし、青キジはなるほどねェと呟いて窓の外を眺めていた。

「メロメロの実やホレホレの実の下位互換ってところか?……まさか一般人が悪魔の実食ってたとはね」
「俺も最近自分が悪魔の実の能力者だってこと知って……」
「むしろよく今まで気づかなかったな」
「なんか風呂に浸かると元気出なくなるなとは思ってたんですよ。でも基本シャワー派なんで」
「なァ、俺にもちょっとデレデレビームやってみてよ」
「えっ出し方とかわからないんでちょっと……」
「両手を前に出して力込めたらいけるんじゃない?」
「うーん……でもそしたら青キジさんが俺に惚れることになるんですよね?」
「まァ……そうなるか」

じゃあやっぱいいわと青キジさんは断った。

「とにかくこれでロブ・ルッチの様子がおかしい理由が分かった。ま、ほっときゃあ治るってんなら俺がとやかく言うつもりはねェ」

だがな、と青キジは続けた。

「もし効果が切れたら、お前間違いなくロブ・ルッチに殺されるぞ」
「わかってます……」
「…………はァ。ナマエ。ペンあるか?」
「あ、はい」

胸ポケットから引き抜いたペンを渡すと青キジはカウンターに置いてあったペーパーケースから紙ナプキンを一枚引き抜き、何かを書き込むとペンと共に俺に手渡した。

「これは……電伝虫の番号ですか」
「そう、俺直通の電伝虫の番号」
「青キジさんの」
「あと俺クザンって名前があるからね」

まァ何かあったら連絡よこしなさいやと言って青キジことクザンさんは店を出ていった。


クザンさんの警告で頭の中がいっぱいいっぱいになる。
効果が切れた時の事を考えない日はない。今だって少しずつ部屋を整理して身の回りを整えている。
別に死ぬつもりはない。要するに効果が切れる前に、ロブさんの前から消えればいいのだ。
遠くに遠くに逃げれば殺される心配はないだろう。
というかそもそも死体の山はニュースになっていないし、俺はロブさんに酷い態度はとっていない(と思う)し、体の関係どころかキス……いや手を繋いだことすら無いんだから、ロブさんは俺を殺す必要ないと思う。
いやどうだろう。
デレデレビームを浴びた後のロブさんのせいでどうしても判断が甘くなってしまうが、出会った当初のロブさんやクザンさんの反応を見る限り、地獄の果てまで追いかけてきそうだ。

ならば亡命先を探さなければならない。
ひとまず俺は旅行雑誌を買って帰ることにしたのだった。


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