写真部主人公01


俺はナマエ。海軍の写真部に所属している雑用兵である。

海軍写真部とは、犯罪者達の顔や能力や組織の規模がわかるような資料用の写真を撮るのが仕事だ。
非戦闘員が多い割に危険と隣り合わせの仕事である。俺も非戦闘員だ。

志望動機は単純だった。
きっかけは子供の頃、父親のカメラで街の広場を手当たり次第に撮影していたら、現像した写真にたまたま逃亡中の海賊が写っていて、それが重要な証拠として海軍から感謝状を頂いた。
自分が撮った何気ない写真で誰かを救えるのだと知り、海軍の写真部の門を叩いたのだ。

「ふぅん」

氷漬けになった海賊の氷像を砕きながら、大男は俺の話に眉を顰めた。

「あー……つまりあれだ。カメラが好きだから写真部に入ったってことでいいか?」
「あ、それで良いです」
「もっと楽な仕事とかあったでしょうに」
「好きでやってるので」
「だからってそれで海賊に殺されたら元も子も無いでしょーが」
「でもクザン大将が助けてくれたので。ありがとうございます」
「あのなァ……」

海賊に見つかり襲われそうになった俺を助けてくれた海兵は、冷気のこもるため息を吐いた。



遡ること30分前、隠れるように裏側の入り江に止まった海賊船を撮影していたら、運悪く海賊の1人と目が合ってしまった。慌てて逃げたもののすぐに捕まった俺はぐるぐるに縛り上げられ、船長の前に突き出された。

サーベルが俺の頭上に振り下ろされる瞬間
「あららら……お前ら何してんの」
そんな声と共に目の前の海賊が凍ったのだ。



「よしこれで終わり、と」

俺が回想に浸っていると海賊を一掃したクザン大将がやれやれと呟いてこちらへやって来た。ぐるぐるに巻かれた縄を解いてくれたので俺はボンレスハムから人間に進化できた。

「ありがとうございます!クザン大将!」

ビシッと敬礼すると、ビシッと頭をチョップされた。とても痛い。

「毎度毎度誰かが助けてくれるわけじゃ無いんだから。今日はたまたま俺がサボ……あーなんだ、アレだ。とにかく写真部の奴らってのは毎回こんな危ない事してるわけか」
「えっと。一応、この道一本の人もいますが大体広報活動なんかと兼任してます。海兵募集のポスターとかパンフレット作ったり…」
「ふぅん」
「俺は内部向けのフリーペーパーを担当してます」
「何ソレ」
「各海軍基地周辺のグルメや施設を紹介する、いわゆる観光雑誌みたいなものです。遠征なんかの時、遠征先の島にどんなお店があるか参考にしてもらいたくて」

実際に見てもらった方が早い。
こういう時のため俺は常に冊子を持ち歩くようにしている。砂場に捨てられた鞄を拾い上げ、中から冊子を取り出す。

「今月のです。一冊どうぞ」

クザン大将は手渡されたそれをパラパラと巡っていく。

「へぇウチこんな小冊子発行してたの……」
「雑誌置き場とかに置いてます。持ち帰り自由なんですけどなかなか手に取ってもらえなくて……」

クザン大将の手があるページでピタリと止まった。

「こんな辺鄙な場所にも行ったんだ」
「あ、そこですね。お婆ちゃんが昔住んでた島なんです。お墓参りに尋ねたついでに立ち寄ったら自家製ソーセージが美味しかったので……。クザン大将もこの島ご存知なんですね」
「まァね。俺も3日前、ソーセージ目当てに行ったばっかよ」
「……あれ?3日前って海軍本部で中将・大将クラスが集まる会議がありましたよね?」
「…………」
「……?クザン大将?」

どうしたのだろう。クザン大将が黙ってしまった。
沈黙の後、クザン大将は両手を上げ降参の様なポーズをとった。

「…………まぁあれよ……あー……そうだ。
今度良い店紹介するから取材しなさいよ。だからね。奢ってやるから今の話は黙っててくれねェか?」

それが俺とクザン大将の出会いだった。


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