写真部主人公02


01からある程度仲良くなった後。お勧めの店に連れてってくれるクザンさん。

「ナマエ。クザン大将がお呼びだ」
「はい」

初めて出会った翌日、クザン大将は俺を誘って美味しいレストランに連れて行ってくれた。
奢ってやるから、なんて。あれはリップサービスだと思っていたので、写真部にひょっこり顔を出したクザン大将を見た時はすごく驚いた。なんならその場にいた同僚全員が驚いていた。
それ以降もクザン大将は俺を連れて色々な施設に連れて行ってくれるようになった。

「ナマエ。ちょっと遠出するぞ」

今日もクザン大将は俺をどこかに連れて行ってくれるようだ。



クザン大将の自転車でニケツしたどり着いたのは中規模の島だった。
1時間は自転車を漕いでいたと思うのだが、クザン大将は汗一つかいていないようだった。

そうしてクザン大将が案内してくれたのは、メインストリートからだいぶ離れた、細い路地にある酒場だった。昼間はランチ営業を行っているらしい。
扉を開けるとカランコロンと鈴が鳴った。

いらっしゃいと、カウンターの向こうにいる男の人が挨拶する。クザン大将はその人にどうもと言うと店内を見渡した。

「窓際?カウンター?どこがいいの」
「出来れば窓際でお願いしたいです。あ、先に座っていて下さい。許可を取ってくるので」

はいよと言うとクザン大将は窓際のテーブルへ向かっていった。
俺は急いでカウンター奥の男に海軍内のフリーペーパーでお店を紹介する許可を求めると、男は嬉しそうに快諾してくれた。

「お待たせしました。」
「OKだったでしょ」
「はい。許可を頂きました」
「ここ、いつも人いないからねェ」

確かにこんなに雰囲気の良い店なのに客はおらず静かである。これは海軍写真部ナマエの腕の見せどころだ!
燃える思いと共に鞄からカメラを取り出し、シャッターを切る。気持ちだけは炎のアタっちゃんにも負けないのだ。

「んー……窓際はやっぱ眠くなるな」
「すみません。自然光で撮影するほうが料理が美味しく見えるので」
「あーそういうこと。なるほど」

じゃあそろそろなんか頼むかとクザン大将はメニューを開いた。二人で見れるように90度回転してテーブルに置いてくれる。
メニューは写真が載っていて、どんな料理かわかりやすい。こういうおしゃれな店は文字だけのメニューのほうが多いので、これは高ポイントだ。

「クザン大将はここの常連なんですよね。おすすめはありますか?」
「これかな」
「ではそれのセットにします」
「あーこれね、セットで頼むよりこっちと組み合わせた方が安くなるのよ」
「本当だ!さすがですね!」

裏技メニュー。これはなかなか良い記事が書けそうだ。
クザン大将がいつもの二つとカウンターへ声をかけると、店主と思わしき男が嫌そうな顔をしながら厨房へ消えていった。

「店主さんにはご迷惑おかけしますね」
「そうね。まぁあの人は店長で、オーナーは上の階に住んでるらしいけど」
「へぇ……」

さすが常連客だ。この店の事情に色々と詳しいようだった。
やがて店長が、2人分のサラダとスープを運んできた。メインもすぐにお持ちしますと言い、厨房へ引っ込んでいく。客が少ないとはいえワンオペは大変そうだ。
クザン大将は怪訝な表情を浮かべ、サラダとスープを観察していた。

「……ん?んん?」
「あ、クザン大将は先に食べて下さい。自分は全部の料理が揃ったところを撮影したいので」
「んー……いや、俺も待つわ。確かめたいことがあるしな」
「?」

しばらくするとメインの料理が運ばれてくる。するとクザン大将は自分と俺の前に置かれた料理をまじまじと見比べ始めた。

「……やっぱさ、ナマエのほうがなんか見栄えも良いし量も多くない?」
「そうですか?」
「いや絶対そうだ。あの店長、冊子に載せてくれるとか言うから盛ってるんだわ」
「言われてみれば確かに肉の厚みが違いますね。あの、交換しましょうか?」

大将を差し置いて下っ端が良いものを食べるわけにはいかない。俺がそう提案するとクザン大将は固まり、やがて項垂れた。

「悪い……大人げなかったな。今の発言は気にすんな。ナマエが食べなさい」
「でも……」
「良いから。あー……俺すごいかっこ悪いじゃないの……」

クザン大将は顔に手を当てて自己嫌悪しているようだった。

「いえ!クザン大将はカッコいいです」
「え」
「大きくて、強くて、スーツがびしっと決まってて」
「ちょっと」
「やる気なさそうに見えるけど、周りをちゃんと見てて、気遣いが出来て」
「あの」
「今日だって下っ端の俺のために時間を割いて、こんな素敵なところに連れてきてくれて」
「いやサボりたかっただけで」
「クザン大将は俺のあこが、もがっ」
「わかったわかった!もういいから」

もっと言いたいことがいっぱいあるのに、クザン大将の長い腕が伸びてきて口をふさがれた。
よくそんな恥ずかしいこと言えるなと褒められてしまったので良しとしよう。

「写真撮るんじゃねェの?湯気出てるうちに撮っときなさいや」
「はっ!そうでした!あ、クザン大将はお先にどうぞ」

太陽の光と店の暗さが料理から立ち上る湯気を美しく魅せる。これはきっとなかなかいい写真が撮れたぞ。
あらかたシャッターを切り終えカメラを鞄へしまうと、頬杖をついていたクザン大将がじゃあ食べるかとフォークを掴んだ。
待ってくれていたのか。申し訳ない。

「ありがとうございます」

ん?何が?と、すっとぼけながらパクパクと料理を口に運ぶクザン大将はやっぱり格好良かった。


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