デレデレ主人公07


06の数日後。イラつくロブさんの話

公園で恋人がベンチに座ったら、普通は愛を語らうんだと思う。
だがベンチに座る俺とロブさんは、全然違うことを語らっていた。


もう何枚目になるだろうか。
ロブさんが懐からまた写真を取り出す。

「これはマリンフォードの中庭での大将青キジだ」

芝生で居眠りしているクザンさんが写っていた。

「これはマリンフォード近くの島での大将青キジだ」

浜辺で居眠りしているクザンさんが写っていた。

「これは演習先へ向かう軍艦内での大将青キジだ」

甲板で居眠りしているクザンさんが写っていた。

「さらにこれは……」
「あ、あのもう良いです」

全部クザンさんが寝てる写真じゃん。俺は何を見せられているんだろう。
尚も懐から写真を取り出そうとするロブさんを制す。

「よく分かったろう。これが奴の本性だ」

よく分かんねーよ。


今日はいつもの小さな公園でデートだ。
俺とロブさんはベンチに座り、ハットリは砂場で鳩仲間と井戸端会議をしている。
そこからが問題だった。
デート開始からかれこれ1時間ほど、ロブさんはクザンさんのネガキャンをしている。クザンさんをひたすらこき下ろすロブさんは饒舌でとても楽しそうである。
だが何故デートで、海軍大将青キジの居眠りブロマイドを見せつけられているんだろうか。

「……あの、ロブさん。何でクザンさんの話題になっているんでしょうか」
「それより何故奴の名を知っている」

俺は挙手をしてロブ先生に尋ねると、奴は質問に質問で返した。

「……パレードの翌日、バイト先にクザンさんが来て名前を教えてくれたんですよ」
「…………」
「ロブさん?」

ロブさんはしばらく考え込んだ後、俺を見つめるとおもむろに口を開いた。

「ロブ・ルッチだ」

知ってる。

「ロブ・ルッチだ」
「知ってます」

俺はアホだと思われてるんだろうか。
ダメ押しのようにもう一度言ってくる男は不満気だった。
だから仕方なく俺も、ナマエですと自己紹介にノッてやると何だコイツという目で見られた。おかしくない?そういう流れだったじゃん……。

「…………」
「…………」

お互いどうして良いのか分からず見つめ合っていたが、やがてロブさんは咳払いをしてこう言った。

「それと残念ながら大将青キジは異性愛者だ。懸想しても無駄だぞ」

残念ながら俺も異性愛者なんだよなぁ。なんなら多分本当ならロブさんも異性愛者なんだよなぁ。

「いや、だからなんでクザンさんの話になるんですか。
って言うか俺の恋人はロブさんなんだから、クザンさんが異性愛者だろうが同性愛者だろうが関係ないじゃないですか」

俺がそう言うとロブさんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてこちらを見た後、シルクハットを顔に当て天を仰いだ。

「ロブさん……?」

ロブさんはたまにこういう奇行をとる。
しばらくしてロブさんは前を向き、帽子を被り直した。

「ナマエ。俺達は恋人だ」
「はい」
「恋人なら名前で呼び合うべきじゃないのか?」

ロブさんは非難がましい目でジトリとこちらを見た。

「あ」

瞬間、今までのロブさんの不可解な行動に納得した。
出会って2日の男は名前呼びなのに、出会って1か月以上になる恋人はいつまでも苗字呼びなのだ。それは気になるだろう。

だけど……。

「あの、名前呼んだら怒りませんか……?」
「お前は俺を何だと思っているんだ?」

殺人鬼。理不尽マン。プライドレッドライン。面倒くさい彼女全世界代表。

「呼んでみろ」
「はあ」

俺は一呼吸おいて、おずおずと口を開いた。

「……ルッ……」

え、待って。なんか恥ずかしい。
ロブさんはこちらをじっと見ている。

「ルッ……ル……ルルル……」
「歌うな」

違うんだ。気恥ずかしくて言葉に詰まってるんだよ。

「急に言われても心の準備が……」
「名前呼ぶのに準備も何もないだろうが」
「いやまぁそうなんですが」
「ナマエ」

俺がまごついているとロブさんはそっと俺の手を取った。そのまま流れるような動きでもう片方の手で俺の髪を掬い耳にかけると、耳元に口を寄せ優しく囁いた。

「選べ。今ここで俺の名前を呼ぶか、死ぬか」

「ルッチー!!!!」
「バカヤロウ!耳元で叫ぶな!」

頭をグーで殴られた。すごく痛い。
でもまぁ、呼べるじゃねェかと言ってルッチが笑っていたから、良いかなと思いました。



『いや、良くねェから。写真は捨ててよね……』


電伝虫のテストとして今日のことを伝えてみたら、クザンさんは不満気だった。


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