◇ ST AY HOME


たった一文のメッセージを送った。

"暫く会わない"

仕事に区切りがついた夕暮れ時、俺の可愛い恋人へ宛てたメッセージだ。
今時分は、台所で夕飯作りでもしているだろう。
作り終えて落ち着いた頃に俺のメッセージに気付くだろうか。

然し、数分もしないうちに俺の携帯端末が断続的に振動し始めた。
時間こそ早いが、予想通りの展開だ。

『もしもし、中也?あのメッセージ……どういう意味…?』

怒って、電話してくると思った。予想に反して泣き声にも似た震えた声に、突如として罪悪感に苛まれる。
それと同時に、例え難い幸福感も感じてしまっているからやめられない。

「言葉通りの意味だ。解んねーか?」

『…ッ!それ、て、つまり…私と別れ」

「感染病。アレの対策だ。」

『…へ?』

嗚呼、可愛い。
予想通り過ぎる反応。
今すぐ撫でくりまわしてぇ。

けど、今は我慢の時だ。

「悪い悪い、お巫山戯が過ぎたか。連日、報道されてンだろ。
本当は手前の事は俺が守ってやりたいけどよ、相手が感染病なら、してやれる事は限られてくる。
特段、今は症状も何もねーし、感染してるとは思ってねえが、俺は人と接する事も多いだろ。
どこでもらってるかも解らねえし、発症する前の潜伏期間でも感染はするって聞いてな。」

『…泣く子も黙るマフィアも恐れる感染病…。』

「あぁ、一番怖ぇのは、俺が知らずに感染して、手前に感染させちまう事だよ。」

世界中に蔓延している感染病。
さっきまで普通に会話していた人間が、数時間後には呼吸を止めている事もあるという。

「ましてや症状も人それぞれだっていうじゃねえか。熱だとか味覚だとか、ンなもんは一つの指標にしか過ぎねぇ。
無症状でも感染してる事もあるなんて言われちゃあ、流石にお手上げだ。
だから、手前とは暫く会わねえ。」

『中也…』

"知らずに感染して、知らずに大切な人にまで感染させ、気付いた時には失ってた"なんて間抜けな話、後悔してもしきれねえ。
立場が逆だとしても、同じだろう。

だからこれは、互いを守るための行為。

『ありがとう、中也。私、大切にされてるんだね。』

今の時代は便利だ。
直接会わなくても言葉は届くし、想いは伝わる。

俺は耳から携帯端末を離し、カメラのアイコンに触れる。

「なァ、テレビ電話に切り替えろよ。」

『えぇ?いま素っぴんだし…』

「ほら、早く。」

少しして画面に愛しい恋人の顔が映し出され、つい顔が綻ぶ。

「可愛い。」

『うー、本当?』

「パジャマが。」

『もうッ!中也の莫迦!』

画面の向こうの笑顔も怒った顔も、感染病なんかには奪わせない。

「嘘だって、怒ンなよ。」

『じゃあ、次会った時、いっぱいぎゅーってしてくれたら許す。』

「いいぜ?厭だっつっても離してやンねえけどな。」

『ふふ、楽しみにしてるね。』

「ああ、だから手前も家で大人しくしててくれな。」

『うん、約束する。』

大切な人を守る為に出来ることなら、なんだってやってやるさ。

『あーあ、ちゃんとお化粧してる時にテレビ電話したかった。』

「素っぴんも可愛いけどな。なら、明日のテレビ電話で、俺の為だけに化粧した可愛い顔、見せてくれよ。」

家に居るだけでいいなら、会いたい気持ちを抑えればいいだけだ。
その気持ちは次に会える時まで取っておけばいい。

「愛してるぜ。」

だから、今は。

STAY HOME




一刻も早く、事態が終息しますように。
一日も早く、皆様の生活が元通りになりますように。

2020.04.16*ruka


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*confeito*