メリーバッドエンド
クレヨンで塗りつぶされたように暗い部屋にひとつ、炎が灯りました。何もかも焼き尽くす紅蓮の光は、一つの絵画を炎へと変えました。
金の糸のように柔らかい髪、星ひとつない暗闇の夜空のような瞳はにっこりと弧を描いています。
しかし、黄色い三輪の薔薇に囲まれた少女の、絵に描いたような愛らしい姿は、もうこの世には存在しません。
すべては真っ黒、消し炭の中。
そして彼女の前に立つは一人の少女。
儚い茶色の髪、手に持っている薔薇と同じ色の赤い瞳。
薔薇と反対の手に持つのは鈍い鉛色をした、彼女には似合わないライター。無骨な手で彼女を包み込むようなそれは、きっと持ち主はこの世にはいないのでしょう。
消えゆく命を炎に変えて、オイルの切れかけたライターは儚い炎を身に灯します。
彼女はそのライターで消え去った黒い消し炭を踏まぬよう、黒に映える赤い靴を鳴らし、階段を下り廊下をかけました。
気味の悪い世界を駆け巡ってたどり着いたのは、どこまでも黒い世界でした。そして黒い世界の中心には、一人の男性が座りこんでいました。
彼女が持っていたライターはきっと、彼のものだったのでしょう。彼女は彼のその無骨な手へライターをにぎらせ、自分は赤い薔薇を抱えて男性のそばに座り込みました。
男性の肩に満たない身長で目一杯背伸びをし、彼の耳に囁くように語りかけました。
「ねえ……聞こえてるの? 大丈夫。ただ眠っているだけなのよね……なら、安心したわ。私も今すぐ、メアリーと一緒に行くから、だから、マカロン一緒に食べよう、沢山カフェに行って、ギャリーの好きなお菓子を食べて、それで、それで……」
自分の周りに散っている青い花弁をみつめています。そしてふとその瞳から滴をこぼし、自分の薔薇を濡らしました。
彼の薔薇とは違う満開の花弁は彼女の精神を逆撫でし、彼女は自分の薔薇へ手を伸ばしました。
いつか、いつか『最後の舞台』で眠りについたときのように。
彼の手に握られたライターは、その命を見送るように最期の炎を灯しました。
青い炎が赤い薔薇を喰らうように、彼女は同じ末路を辿りました。
二人の男女がとある美術館の展覧会に来ていました。もうそろそろ帰ろうか、男がそう口にした時。
「あら、こんな絵あったかしら」
女が見つめた先には、赤と青と黄色の薔薇が寄り添う、『最期の幸福』という絵がありました。
そして何か忘れ物して、彼らは美術館を後にするのでした。
バッドエンドの名前を聞いたときにピンッときた話。
ED名をつけるとしたら忘れられた少女でしょうか
けれど少し前に書いたので頭のおかしい文です。
ED名をつけるとしたら忘れられた少女でしょうか
けれど少し前に書いたので頭のおかしい文です。