雪の日の話


「はあ。寒いねえ」

 白い窓を拭きながら、スプレンディドは呟いた。穴がぽっかりと開いた窓からは、緑の草を完全に覆いきれていない雪が見えた。

 時々火が弾ける音が聞こえるこの家は、彼の家ではない。
 しかしまるで自分の家のように自由に踏み荒らし、戸棚から断りもなくマグカップと袋を取り出してココアを作り始める。……まあ、当の家主に聞いたとしても、答えは返ってこないだろうが。

 彼がやかんに水を入れて火にかけようとしていると、リビングに置かれたこたつの布団がもぞもぞと動いた。唸り声を上げて顔を覗かす様は、まるで冬眠を妨げられた熊のようだった。

「おはよう、フリッピーくん。それとも軍人くんかな」

 スプレンディドは、二重人格である彼らをフリッピーくん、軍人くん、と呼び分けている。
 反応がなかったのでもう一度交互に名前を繰り返すと、フリッピーと言った時に僅かに反応したので、きっとそうなのだろう。

 自分で飲むためだけに準備していたのだろう。戸棚から、名前を呼んでから一向に反応のない彼の分のマグカップも取り出す。

「ココアでいいよね。もうちょっとで沸騰するから待ってね」

 そう言うが早いか言わぬが早いか、甲高い音を鳴らしてやかんが煙を吹いた。
 てきぱきとココアを作り、白い湯気が香るそれを二つこたつの方へ運ぶ。先程のやかんの音で目が覚めたのか、フリッピーは若干体を起き上がらせて欠伸をしていた。

「おはよう。よく眠れたかい。君は寒いといつもこたつに潜るね」

「おはようございます……。はい。寒いのは苦手で、それで入っちゃって、眠くなっちゃって、ついつい、そうですね……」

 歯切れの悪い台詞を、よだれの跡がついた口から溢す。会話をしたことで眠気が少し覚めたのか、マグカップを手に取った。

 湯気立ちのぼる甘いココアに口を付け、少しずつ冷まして飲む。温かい液体が流し込まれて、青白い顔が心なしか健康的な色になった。

「ねえねえ、雪が振り始めたよ。遊ぼうよ」

「嫌です……。寒いのが苦手だと知って言っているんですか、あなたは」

 スプレンディドの提案に、フリッピーは頬を膨らませた。咎めるような言葉だったが口調は穏やかだ。
 普段はお互い血溜まりの中にいるが、存外気が合うのかもしれない。降り積もる雪の外で、二人はくすくすと笑うと、こたつの上に置かれたみかんを剥き始める。
 彼がつるつると甘そうなみかんを口いっぱいに頬張る様子を眺めているスプレンディドも、同じようにみかんを口に運んだ。
特に意味もない、ダラダラした話です。



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スワンプマンの箱庭