蜘蛛の糸
私には、蜘蛛の糸が見える。
それは細く星のようにきらきらしていて、視界の隅でちらついたかと思えば、すぐ消えてしまう。だが時々、何度瞬きしたって消えない蜘蛛の糸が見えるのだ。
お釈迦様が戯れに垂らした糸は、救いの手だったという。なら、私だけにしか見えないこの糸は、誰に垂らされた救いの手なのだろう。
ほら、私の前を走っていく小さな子ども。あの子の頭のちょうどつむじから、まるで天へ吊り上げるかのように伸びている蜘蛛の糸。見えないかしら。
私の目には、随分太く見えるのだけど。
小さな子どもは車の喧騒に紛れて、固いアスファルトを蹴ってぐんぐん走っていく。
何度目を擦ったって、蜘蛛の糸は消えない。
お釈迦様が垂らした糸は、最後どうなってしまうか知っているかしら。あれは確か……そう、切れて真っ逆さまに落ちたのだったわ。
T路地を曲がって見えなくなってしまった子どものあとをゆっくりと追いかける。車の喧騒は、いつの間にかけたたましいサイレンになっていた。
私の横をふわりと千切れた糸が漂っていた。