その足で立って、地を蹴る


――融けた鉄を飲まされたような味がした。

「アンデルセン?」
「気……にする……な、マス……」

 どろどろと砕けた喉から溢れるのは、呪詛のように枯れた声。前々から随分と姿に似合わぬ声だったが、今の彼はひしゃげた老爺のようだった。
 引き裂かれた皮膚の隙間からぽろぽろと足からこぼれていくものを見て、マスターは咄嗟に手の甲を握った。
 鉱石のように光るそれは魚の鱗のようで、虹色のところどころには赤く血液が付着していた。

「だめだ下がれ!オーダーチェンジだ!」

 後衛で唯一立ち上がっているナーサリーライムを慌てて呼ぼうとするマスターを、アンデルセンは無言で静止した。
 場のカードはアンデルセンとアサシンエミヤ、マシュ。戦力不足は一目瞭然だった。目の前まで迫っている黒い頭巾を被ったアサシンは多量の返り血を浴びている。その血が誰のものか言うまでもないだろう。

「俺がわざわざ生きながらえるよりも、もっと効率の良い方法があるだろう?マスター。おいエミヤ。俺に敵を集めろ。なに、一撃ぐらいなら耐えてみせるさ。二撃耐えたら拍手喝采だ!」
「だめです、ミスターアンデルセン!せめてスキルを!」
「――読者よ、世話になった。おいエミヤ。頼む」

 悲痛なマシュの叫びとアンデルセンぼろぼろの声を交互に聞いて、エミヤはそっと手の中の小銃を握る。途端に敵の刃はアンデルセンへと向いた。
 殺意を一心に浴びニヤリと嘲笑った彼は、もう聞こえぬ悲鳴を背負ってアサシン達を囃し立てた。その声はもはや絶叫だった。

「さあ、俺の生涯最後の物語を書き上げよう。メルヒェン・マイネスレーベンス!!」
リクエストの品。
ボロボロで毒を吐くアンデルセンが好きです。



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スワンプマンの箱庭