そうやって俺はまた死んだ


「マシュは宝具の準備! ジキルはチェインを組んで引き続きライダーを、バニヤンはスキルで援護! 溜まり次第回復もお願い!」
「了解っと。まあ、できることはやってみるよ」

 金の光を携えた腕がにょきりと三本、地面から生えていた。一見するとシュールな腕達は、余裕綽々といった風に藤丸達の攻撃を待っていた。
 対象的に彼らは傷だらけ。シミュレーター上のHPが藤丸の視界に表示されているが、三つあるゲージは赤色。ついでに彼も全身焼け焦げており、プログラムされた痛みを感じていた。

「先輩! すみませんが耐えられそうにありません!」
「あーまたダ・ヴィンチちゃんに種火集めが下手だねって笑われちゃう……」
「解体しちゃう?」
「バニヤンちゃん……ジャックちゃんの悪影響受けたね……」

 ジキルが攻撃に出ている間、マシュの盾裏で呑気に談笑していた。歳の近いジャックと仲の良いバニヤンは、時々彼女の口癖を真似しては洒落にならないチェンソーを持ち出してころころと笑う。
 そんな彼らを背中に背負ったジキルは唐突に悲鳴を上げた。どうやら敵の攻撃を受けたようだった。炎と混じった金色が霧散していき、シュワシュワと弾ける音が聞こえる。藤丸の視界の端で、彼のプログラムされたステータスが消えていくのが見えた。

「すまないマスター……」

 カルデア随一の火力を持つジキルが消滅し、打開策は皆無。呆気なく散っていったバニヤンを傍目にマシュは防戦に徹したが、炎を二撃浴びたところで敗北を意味する攻撃がクリティカルヒットした。
 藤丸の目に、盾を構え防御体制を取るマシュと、迫り来る炎が映った。その炎は盾に当たり、それでも止まらぬ勢いで彼の全身に降り注いだ。
 うねりを上げて襲う炎が肉と骨を溶かし、粒子に変えていく。抑制された痛みが脳を埋め尽くし、何度も味わいすぎて薄れたはずの恐怖がふと湧き上がってきた。その意味を理解する間もなく、戦闘終了のテロップと共に藤丸達は放り出された。

「お疲れさまです先輩。……先輩?」
「あッ――なあにマシュ?」

 自分は確かに燃え尽きたはずだった。それでもその体は五体満足に動き、痛みなど微塵もない。しかしあのときの感覚を思い出して、彼はぎゅっと令呪が刻まれた手で抑えつけた。

「次こそは頑張りましょう! メンバーの体調も万全です。先輩、今すぐ――」
「ごめん、ちょっと休憩しないかな? あーええと、トイレ行きたくなっちゃって! すぐ戻ってくるね!」

 拳を握り意気揚々と戦いを宣言するマシュに背を向け、手洗い場へ全速力で駆けた。
 気がつくと藤丸が消えていて取り残されたマシュは、不思議そうに首を傾げた。

***

「ッ……はァ……」

 口元を乱暴に拭い、鏡に写った自分を見つめた。
 別に面倒になったわけではない。疲れたわけでもない。ただただ脳裏にこびり付いて離れないのだ、何度も迫ったあの瞬間が。

「ああ、ロマニに顔色が悪いとかバレちゃったかな……。だめだなあ俺……」

 白い無機質な陶器は、火照った藤丸の体には些か冷たすぎた。喉元を焼け尽くす感覚を誤魔化すように鼻を啜る。
 目を袖に擦りつけるようにして蹲ると、締め忘れた蛇口から溢れた水が髪を濡らした。節水とか種火集めとか、考えなくてはいけないことはたくさんあるはずなのだが、震える膝は止まらなかった。

「はあッ……そうだ、種火……」

 ゆらりと伸ばされた足は体重を支えきれずに崩れ落ちる。地面まで濡らし始めた水に反射する顔に焼け爛れた皮膚が見え飛び跳ね、揺らいだ水面に安堵する。
 髪から溢れる水滴を意に介さず立ち上がり、辺りの状況に気づかぬままその場を去った。


 藤丸を出迎えたマシュは、水浸しの彼を見て驚愕の意を示した。

「先輩! 水浸しですよ!」
「え? 本当だ……あ、えっとね、手を洗っていたら思わずその、ぶしゃーって跳ねちゃって……。あとで掃除頼まなきゃな」

 ぼんやりとした記憶から「そういえば水出しっぱなしだったな」と引っ張ってきて、適当に言い訳をする。そうですかと微笑んだ彼女の顔は相変わらず闘気に満ち満ちていた。
 その顔を見つめていると、まるで戦いから離れて日常に戻ったようだった。

「マシュは、さ。怖くないの?」
「はい? 何がですか……?」
「――ううん、なんでもないよ。さあ! 次こそは種火いっぱい持ち帰って、再臨してあげなくちゃね!」
「はい! 先輩のお役に立てるよう、頑張ります!」

 シミュレーターに飲み込まれながら「死ぬのは怖くないのか」と問うたつもりだったが、マシュはそう言って無邪気に笑った。花が零れ落ちるような笑顔だった。
 その顔を見つめながら、藤丸はこっそりと令呪を爪で引っ掻いた。
リクエストの品。
前々から書こうと思っていたネタです。



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スワンプマンの箱庭