サンプル104号室
■月■日
僕はここ、オガワハイムに引っ越してきた。ミスター・メフィストの紹介だ。例外なく彼の趣味で染まったアパルトメントだけどね。
外からは人から腐り落ちたゾンビ達の声がするけれど、部屋の中は広いので不満はない。内装も煤や埃は見当たらなく、とても綺麗だ。
外は少々騒がしいが背に腹は変えられない、と言うやつだろうか。とりあえず様子を見ようと思う。しばらく暮らして問題がなければ、ここを新居にするためにドクター・ロマンへ報告しに行こう。
そうそう、心機一転とでも言おうか。ちょうどノートが余っていたから日記を書くことにした。特に書くことはないだろうけれど、何分料理が苦手なものだから、料理ノートにでもしてみようか。
今日はカルデアから持参したお弁当をいただき、薬を飲んで寝た。
■月■日
昨日は少々寝苦しかった。やはりベットが違うせいだろうか。
先程気づいたけれど、外はいつ見ても満月が上っている。ずっと夜みたいだ。情緒のある演出だな。ミスターには称賛を送るとしよう。
今日はミスター・エミヤ教わったおにぎりを作ってみた。あまり良い味はしなかった。ミスターが言うにはふりかけや塩とやらを入れると美味しく仕上がるらしい。白米だけで握ったのが仇になったかな。明日試してみよう。
今日も薬を飲んで寝た。
P.S. 明日の予定:カルデアから枕を持ってくる
■月■日
どうやら僕は三日坊主らしい。昨日は日記を書くことを忘れてしまった。前はこんなことなかったのにな、最近物忘れもひどい。年を取った訳ではないはずだ。決して。
オガワハイムに朝は来ない。今日も相変わらずの満月だ。ここまで徹底されるといっそ気味が悪いような。
今日はせっかくなので日本のコンビニエンスストアに行ってみようと思ったけれど、外で徘徊しているゾンビのせいで廊下を歩くことすらままならない。管理者に問い合わせてみよう。
仕方がないのでまたおにぎりを作った。三角に握るが難しい。これではライスボウルだ。
味の方は塩を少々と、記憶をたどって海苔を巻いてみることにした。とてもおいしかった。
最近、薬の効きが悪いので量を増やしてみた。なんだか体がだるい。悪寒が走る。今日は早く寝よう。
■月■日
今日は外がやけに騒がしかった。ゾンビのうめき声が増えた気がする。いや、これは本当に彼らの声だろうか? もしかしたら、僕の声ではないだろうか?
食べても食べても吐き気がする。いつの間にか胃が空っぽになっていた。酷く臭う。
全身の骨が砕かれたように痛む。
きっと体調が悪いのだ。今日も薬を飲んで、早く寝よう。
P.S. 部屋が血生臭い。魚や肉類は食べた覚えはないが……。トイレに婦長がおいていたあれがほしい。
P.P.S. 消臭剤というらしい
■月■日
最近はやけに眠っている時間が多い。
気がついたらボロボロの部屋で寝ている。変だな、来たときはとても綺麗だったのに。それだけ時が経ってしまったのだろうか。
あの日以来毎日欠かさず日記を書くようにしているけれど、前のページの日付は――三日前だ。流石に寝すぎているだろう? 僕。目覚し時計がほしい。
寝ても起きても夜だ。満月の光すら憎いから、外には出なくなった。この部屋に光なんてない。ここにあるのは暗闇だけだ。それがどうしようもなく愛おしい。
次目覚めた日の僕へ。一度カルデアに戻って霊基の検査をしてもらってくれ。今日の僕はもう寝るよ。そういえば結局、ドクターに移住の許可を取るのを忘れていたな。
今日は薬を倍にして飲んだ。そうすると、なぜだか楽になれる気がしたから。
■月■日
前の日記は珍しく昨日の日付だった。だんだん痛みも和らいできた。昨日の僕への返信と気晴らしも兼ねて、日記の内容を実行することにしたのだが。
結局、僕はカルデアに行くことを諦めた。外に出ようとしたのだが、何かに阻まれた。僕達は閉じ込められてしまったようだ。
ミスター・メフィストも居ない。外で呻くゾンビがうるさかったから殺した。服が血生臭くなった。
何もすることがないし、おにぎりを作るにも材料がない。仕方がないから部屋でごろごろしていたら、またあの痛みが襲ってきた。
今日は更に薬の量を増やした。そうすると■■■になれる気がしたから。自分の体が腐り落ちていくような気がした。
■月■日
僕達は何度も薬を飲んだ。そして死んだ。何度も薬を飲んだ。そして死んだ。何度も薬を飲んだ。そして死んだ。何度も薬を飲んだ。そして死んだ。
かなりの量を飲まないと死ねなくなってきた。致死量なんてとうの昔に超えている。そこまで再現しなくていいのにね。
もう痛みがないことに悪寒が走る。前の日付は二週間前だ。助けは来ない。誰も気が付かない。助けてほしいのに。僕達は閉じ込められてしまった。標本箱の中に。どうしようもない。防腐剤なんか入ってない。腐り落ちていくだけだ。何度も繰り返し飲んで、■■■になって、いつか外にいるゾンビとも大差なくなるのだろう。
もう痛みがない。きっともうすぐ、朝が来る。
今日は薬を元の量に戻した。そっちのほうがずうっと、楽になれるから。