終点



「次はあー終点ーだがしやえきいーだがしやえきいー」

 ききーっというオノマトペとともに、小さなこどもをふたり乗せた輪っかが、ゆるやかに停止しました。
 4つのもみじのような手から離された輪っかは、そのまま土の上へぱたりと落ちます。さっきまではけんめいに握っていたその手たちは、もう縄にはみむきもせず、駄菓子屋へかけよります。
 ふたりのうち、短パンを履いたの男の子は、店の前に並ぶ駄菓子の中から、さっとつかみ取って台の上に置きました。

「おばちゃん! これください!」

 男の子はそう言って元気に右手をつきだします。その手のひらには、100円玉が1枚と10円玉が2枚、ぽってりと乗っています。
 ふたりのうち、花柄のシャツを着た女の子は、両手をうしろで組んでただ待っていました。

 お店の中から出てきたおばちゃんは、そのふたりを見るなり、にっこり笑ってお金を受け取りました。気を利かせて、駄菓子を入れる袋は2枚用意しました。

「ありがとうおばちゃん!」

 男の子はそう言うが早いか、袋を2つ掴んで振り返り、女の子へ差し出しました。女の子は2つの袋の片方を手に取ります。

 女の子の顔は、まっかに染まっています。それはきっと、ゆうやけこやけのメロディが流れる町並みのせいではないのです。なにせこの子は、目の前の男の子に小さな恋をしていたのですから。

 しかし男の子は気にも止めません。土まみれになった縄をひっつかみ、彼の家の方向へ足をふみだそうとしています。
 それを見て、彼女は男の子のそでをつかもうとして――やめました。なぜなら、もう意味などないからです。

 女の子は明日、引っ越すのです。どこか遠いところです。そこに、彼はいません。ふたりは子どもでしたから、それは今生の別れにひとしいものだったのです。

 彼女の恋は、このだがしやえきがまさに終点なのでした。
 夕日がさらにまっかになって、女の子の顔を照らします。そこにはもう、友達へ向ける笑顔しか残っていませんでした。

「じゃあねえ! ばいばい!」

 縄をひっつかむなりかけだした男の子へ向かって、女の子は手を振りました。男の子は振り返りません。だから二人は気づきません。もう夕日が沈んでしまっていることに。それでもその顔はきれいに色づいていることに。なぜなら、ここは終点なのですから。
twitterでお題を募集したものです。
お題「駄菓子屋、終点、夕日」



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スワンプマンの箱庭