出会ったのは間違いだったんだ
「バー……ボン……さん……?」
拳銃の冷えた感触が手のひらに伝わる。それは拳銃が冷たいのか、手のひらが熱いのか。目の前の女性はただ信じられないと言った風で首を横に振っている。人をすぐ信じるのは彼女の美徳であり同時に欠点だと思う。
「ええ、そうですよ梓さん。……と言っても、偽名ですがね。どちらとも」
「……っ!」
じゃり、と音がする。彼女が後退する度に自分も足を踏み出すが、コンパスの関係か幅はどんどん狭まっていく。
梓さんの顔が眼前に迫る。その怯えた顔が、嫌に頭にこびりついた。いつも彼女の笑顔しか見てこなかったから、安室がこういう顔を向けられるのは初めてだったから。
「残念です。梓さん。あんなところを見なければ、あなたはまだ生かしておけたのに」
「あ、安室さ――!」
「安室? 誰ですかそれ。僕はバーボンですよ。あなたを殺す男なんですから、名前は覚えてくださいね」
きっと血糊のとんだ顔は、彼女の眼には恐ろしく映ったことだろう。彼女の顔を見たくないから、抱き寄せるようにして拘束する。珈琲の匂いが染み付いた髪に銃を押し当てる。
安室は絶対にこんな顔はさせない。でも、僕はバーボンだ。
きっと引き金に指をかける音が聞こえたのだろう。腕の中で小さく震える彼女が、やけに小さく見えた。そして僕は引き金を引く――フリをして、首に手刀を落とす。事切れた彼女の目尻から涙を伝ったのを見て、小さく舌打ちをした。
「僕とあなたは相まみえるはずなかったのに」