忘れ雪
「ねェ知ってるかい。ナオミ。その冬最後に降る雪のことを、忘れ雪って云うンだってさ」
そう言って笑う兄様は、とても綺麗に見えました。いえ、兄様が綺麗なのはいつものことですわ。だってナオミの兄様ですもの。けれどその日は特別、綺麗に見えたのです。
「忘れ雪……そうですわね。確かに私達は、その雪が溶けるともう、冬を忘れてしまいますわ。けれども、また思い出しますわ。また雪が降ったら、冬を、雪を」
そう云うと、兄様は何処か安心したような顔でそっと抱きしめてくださりました。それと同時にふと気付いたのです。兄様は、寂しかったのですね。頼れる私の兄様。けれどなんだかかわいらしく見えてしまって、震えるその肩を優しく揺らしました。