なんとかの眼になる

 ある日の真夜中の公園で出会ったのはシロという歌手だった。

「何をしているの?」

 と聞いてきたはずだがおれは作曲に夢中でなんて答えたかわからない。ただ気付いた時には綺麗なな歌声が耳に入ってきていた。ただラララと歌っているだけなのに歌詞が付いているみたいな錯覚がした。
 おまえ歌えるのか?と聞いたら何を言っているんだって顔をしていて、その楽譜おれのだろ?と楽譜に指を差せば、今歌ってたかと聞いてきたんだ。無意識だったんだろう。だからおれはおかしなやつだと言った。
 それは正しかったようで、急に私の曲を作ってくれと言ってきたんだ。





 どうしてあの時あんなことを言ったのか知ったのは翌日だった。セナがレッスンの時間より2時間もはやいのにレッスン室にいてなにかを聴いていたんだ。

「おうセナ!はやいな!」

「王さまか。王さまも随分はやと思うけどぉ?」

「おれはひまだったからな。あらたな霊感を求めて歩いていたらここにたどり着いたんだ!」

「あっそ。じゃあ作曲でもしてればぁ」

「つめたいな。ところでセナ、さっきからなにを聴いてるんだ?」

「あぁこれ。王さまも聴く?」

 そう言ってセナがイヤホンを片方貸してくれた。それを差し込んで聴いてみると昨日の彼女にそっくりの歌声が流れた。

「なあセナ。これだれだ?」

「シロっていう歌手。最近は全然名前見ないけど。」

「こいつのこと教えてくれ!」

 数年前にデビューした一切顔出しも年齢もしてない女性シンガーが売りだったが半年前ネット上で個人情報がばら撒かれたらしい。それ以来活動しなくなったそうだ。
 彼女が歌えたのかと聞いてきたのはきっと歌えなくなっていたからだ。その情報が嘘か本当かわからないけどシロの歌声を奪われたことは事実でなぜか腹立たしくなった。
 あいつに曲を作ってやりたい、作ってあいつの歌声を取り戻そうと決心した。





 また今日もあの公園へ行った。今日は彼女の方が先だった。今日はどんな曲が作れるだろうかとワクワクし過ぎて霊感が湧いて止まらない。あいつと居ると次々溢れ出して書き留められないくらいだ。
 彼女の隣に座り曲を作る。はじめて彼女への曲を書く。何も知らないけど隣にいるだけで彼女の感情がテレパシーのかのように伝わる。あぁ全部書かないと。書き留めないと。