世の中のなんとかかな
受付で担当を呼んでもらい会議室に通された。重々しい空気が漂った。
「お久しぶりです。」
「1年ぶりくらいか?元気にしてたか?」
「はい。おかげさまで。」
担当してくれているこの人の第一印象は怖いだろうか。でもそれは表面だけで中身は優しくて飴と鞭の使い方が上手い人だ。こう見えて2児の父親だって聞かされた時は驚いたけど、納得もいった。
「今日は復帰をしたく参りました。」
「ということはもう歌えるようになったのか?」
「はい。彼の曲だけですが。」
鞄から例のファイルを取り出し担当の前に出した。見ていいかと聞かれたのでどうぞと言うとページが捲られていった。
「これまでの曲とは雰囲気が違うな。どちらかというとお前自身そのものと言ったところか。……いいんじゃないか。」
「はい。私もそう思っていました。」
「生意気になったな。ガキかよ。」
所詮ガキですよ、と返した。それからとんとん拍子で予定が組まれていった。ありがたいことにこの1年間で溜まった仕事が多くあるらしくそれも事細かく組み込まれた。真っ白だったスケジュール帳は黒く変色した。
誕生日から半年が経った。今日から再出発をする。初めて歌番組に出るし、ステージにも出る。トークもする。緊張で寝れなかった。再出発できることを月永レオにお礼を言いたいけど連絡先も住んでいる所も知らない。あの公園に何度か行ってみたけど会えなかった。どうやら全国ツアーをしていたようで、事務的な手続きは会社同士でやってくれたからもしかしたらこの話は月永レオの耳に入っているかもしれない。だけど自分の口で言いたかった。
そんな思いを引きずりステージに上がった。月永レオに感謝するために、この曲だけはあなただけに向けて歌わせて。
「シロさんの復帰作のアルバムにも収録されています。『21st』どうぞお聴きください。」
『シロさんの復帰作のアルバムにも収録されています。『21st』どうぞお聴きください。』
そう番組MCが言うと画面は黒の背景に青い淡いライトが足下を照らしスポットライトが当たった一人の女性を映し出した。一つ一つの動きが細やかでおれの好きな歌声が流れた。
復帰することは所属する事務所から聞いた。ただ勝手に作詞作曲し彼女に渡したことは少し怒られた。どうやらその後詫状というものが彼女の直筆で届いていたらしい。
「ちょっと王さまいつまでそれ見てるつもり?」
「あはは☆いつまでもだ!」
「そんなことできるわけないでしょぉ。とっとと行かないと遅れるんだけどぉ。シロに会えるんだからはやくしてよねぇ。」
初めて歌番組で共演する。この曲を画面ではなく目の前で見れる。おれもセナもわくわくしていた。シロに会ったら何を話そう。もしかしたら霊感がいっぱい降ってくるかも。