名前は自分と一体
だから私は今起きていることに頭が追いつかなかった。
「遅かったな!」
「なんでいるの?」
「なんでだろうな?会いたかったから、じゃだめか?」
私が住んでいるマンションの部屋の玄関前に冬の寒々とした夜空の下マフラーも手袋も付けず座り込んでいる月永レオ。家賃が高くてもオートロックのマンションにすればよかったと後悔する。
「それよりどうして私の家知ってんの?」
「おまえの事務所で教えてもらえた。」
なんで教えるんだ。個人情報を漏らすなんてどういう神経をしているんだ。信用ならない事務所だと痛感する。
「おれが無理にたのみこんだ。ごめん。」
「悪いと思うならもうそんなことしないで。……寒いでしょ?入りなよ。」
なんでここに来たのかは知らないが話があるにしてもこんな寒空の下で話すのは嫌だった。鍵を開け中に通すと普段は入れないエアコンやホットカーペットを全面に入れ、ストーブもおまけにつける。あと炬燵のヒーターも。コートをかけるハンガーの予備はないので畳んで置いてもらった。
「ココア飲める?」
「飲める!」
体を温めるにはホットココアと自分の中では決まっているから、飲めるのなら二人分用意する。月永レオは正座でやたら背筋をピンと張って炬燵に入っていた。足が痺れたのか少しソワソワしているけど。
「どうぞ。あと、足崩しなよ。」
ココアを月永の前に置き、月永は正座から胡坐に変えた。私はそんな月永レオを横目にココアに口をつけた。美味しい。
「シロ……」
「なに?」
「『21st』買った。聞いた。すごかった。」
「あ、ありがとう。でも、どれも月永レオが作詞作曲した曲ばかりだよ?」
「それは、そうなんだけど。やっとおまえの歌が聞けた。」
「シロの歌?」
そうだと言う月永にどういうことかと尋ねると、本当のシロの曲で本当のシロが歌ったと言葉を並べられた。確かに今までは素性も明かさず作ってもらう人にコンセプトとかだけを伝えて曲が上がって自分にあったものを歌ってきた。月永の言葉にどんな意味が込められているのかわからないけど。
「本当の曲で本当のシロで歌えたのは、月永レオのおかげだよ。ありがとう。」
「その月永レオっていうのやめろ!」
なぜか照れながら彼は言った。それはどれに対して照れているの?褒めたから?
「じゃあレオ?」
「うん。おまえは?」
「……幸村、あきら」
「じゃああきらだな。」