「やべ、コード俺の家じゃねぇか」
珍しく自身のパソコンを使っていた工藤君がノートパソコンのモニターを見ながら呟いた。持ってきたときからコードを繋げていなかったけれど、どうやらパソコンだけ持ってきて充電コードは持ってきていなかったらしい。生憎博士のパソコンはノートパソコンじゃないからコードを借りるということも難しいだろう。
「仕方ないけど取りに行くか…」
「そんなに充電危ないの?」
「もう半分切ってるしな…。灰原も来るか?」
あ、でもお前昴さん苦手だったな。思い出したように彼がそう呟きながらパソコンを閉じて立ち上がる。確かにあの男のことは苦手で、けれどあの男は呉羽のことが好きで。彼女は恋人がいるから、と彼に断ってはいるけれどそれなりに心を開いているのも事実だ。
(いるかは知らないけれど、視察でもしてみようかしら?)
呉羽に恋人がいるからあの男と友人以上の関係になることは無いだろうけれど、年には念を入れておきたい。決して悪い人ではないのだろうけれど私の何かが彼は何かあると言っている。
「行こうかしら」
「え?」
「別に特に会話があるわけでもないけれど、視察ぐらいにはなるでしょう?」
「視察ってお前何するんだよ…」
私も立ち上がって、苦笑いをする彼を見て小さく息を吐く。どうして普段は推理やらなんやらするくせに色恋沙汰には疎いのだろうか。それとも、あの男が呉羽に好意を持つことを気にしていないのか。工藤君だって、呉羽に恋人がいるということは知っているだろうに。
「それで、どこに置いてあるのよ」
「昴さんが使ってる部屋にパソコン置いてたから、多分そこだろうな。いないなら後から言えば勝手に取っても大丈夫だろ」
「そう、」
幸か不幸か、車はあるみたいだけれど。そんなことを考えながら彼の少し後ろを歩く。一応いるかどうかは鍵を開けるよりも先に確かめるつもりらしく、彼は呼び鈴を押す。けれど中から人が出てくることはなく、すぐ近所だからと少し外にでも出ているのだろうか。
「いないなら、鍵開けて入るか」
「そうね。別にやましいこともないでしょうし」
やましいことがあれば、それはそれで嬉しいのだけれど。工藤君が鍵を使って扉を開けば、特に人のいる様子は無い。家が広いだけあって仮に人がいても二階や書斎にいれば人の気配がしないのも頷けるけど。
それにしてもどこにそのコードを置いているのか。彼にその旨を尋ねれば二階だ、と行ってスタスタと階段を上がっていく。
(………?)
階段を上がっていく途中で、どこかで物音がしたような気がしたのは気のせいだろうか。目の前を歩く工藤君に気にする素振りがない故に勘違いかと思いつつも上ってきた階段を見下ろす。下からでは、なさそうだけれど。
工藤君が部屋の扉を開けて、動きが一瞬止まる。中を見れば乱雑なベッド。そして傍に無造作に置かれた服。ひとり分には見えない。そして、工藤君は気付いていないようだけれど特融の独特な臭い。
「……あの人、ここに誰か連れ込んでるの?」
「あー…まぁその辺りはさすがに詳しく聞いてねぇけどよ…。慌てて出て行ったんだろうな」
「にしても、どんな女連れこんでるのかしら」
置かれている服を見る限りは呉羽も好みそうな服装だけに連れ込んだ女はあくまで欲望の捌け口なのだろうか。乱雑なままのベッドと置かれた衣類、特有の臭いとほぼ決定的であろうものが揃っているにも関わらず気にした様子が無い工藤君を見て小さく息を吐く。無知とはある意味では幸せなことかもしれない。
(無知というよりかは、鈍感、の方が正しいかもしれないけれど)
引出を開けてコードを探す工藤君を視界に入れたまま、部屋を見渡す。部屋をパッと見る限りいるようには見えないけれど、大人ふたりが隠れようと思えば隠れられそうな場所はある。ふ、とそっちに視線を移すのと同時に視界に入った床に落ちていたもの。水を零したにしては小さすぎるそれこそ一滴だけ落としたような水滴。まだ乾いていないそれは、決定的だった。
「それで、目当てのモノは見つかったの?」
「ん?あぁ。昴さんには後で言ってればいいだろ」
「そう。だったら早く出ましょう。いつ戻ってくるか分からないし」
「そうだな」
手に持ったコードを私に見せる工藤君に半ば呆れつつ、早々に部屋を出る。何が悲しくて苦手な男のそういうことを知らなければならないのか。さりげなく呉羽にあの男はやめた方がいいと思うとだけ伝えておこう。そう心に決めた。
2016.12.01
back