私は貴方だけのモノ

 
「珍しい……」

郵便ポストに入っていた、一通の手紙。突然この世界に来た私に手紙が来ることなんて無いに等しくい。封筒に差出人の名前は無くて、ただ『苗字名前様』とだけ書かれている。
家の中に入って適当に学校鞄を置いてその手紙を眺める。封筒に書かれている字は、秀一さんのものではない。見覚えの無い字だ。全く心当たりのないその手紙の封を開けて、中身を取り出す。

「………気持悪っ」

中に入っていたものを見て、可愛らしく悲鳴を上げるよりも先に引いた。入っていたのは、数枚の写真。秀一さんと写っているものもあれば、私1人のものもある。

(むしろ秀一さんを写真に収められるってすごいな…)

送られてきた写真は、綺麗にピントが合っているものばかりだ。どこから撮ったものなのか、と言いたくなると同時に写真を撮った人の持っているカメラが気になるところだ。秀一さんを写真に収めたのだから、望遠レンズだろう。重いしピント合わせにくいものもあるし、ここまで綺麗に取れるのなら方法が知りたい。

(でも、多分そういうことじゃないよね)

一緒に入っていた便箋を見れば、ただ中央に赤字で『キミハボクノモノダ』とだけ書かれている。いわゆるストーカーさんだろう。実際今のところ被害という被害が無いだけに実感は無いのだけれど。
手紙を出したからと言って、相手がすぐに行動に移してくることはないだろう。とりあえず写真と便箋、封筒をひとまとめにして片づける。
とりあえず登下校のときにでも人の気配がしないか確認した方がいいかもしれないそう思いながら、頭を今日の夕飯のことに切り替えた。

 + + +

「手紙が入ってたぞ」
「え?あ、有難うございます」

珍しいな、手紙が来るなんて。そう言いながら渡されたのは、少し前に見た白い封筒。相変わらず見覚えが無い字で、その手紙に心当たりは無い。

「この家に来る手紙なんて、殆ど無いですもんね」
「…開けても、いいか?」
「え?」
「その手紙だ。差出人が全くないというのも奇妙だろう」

出来れば秀一さんには隠したかったのだけれど、彼の勘の良さでは私には無理だろう。それに今のところ私自身に被害は無い。私は秀一さんの言葉を了承してその手紙を渡す。
秀一さんはその場で手紙の封を開けて、中からひとつのものを取り出す。

「写真…いや、葉書サイズか?」
「ぐらい、ですかね…」

入っていたのは、シルバーの葉書入れのようなケース。その入れ物を秀一さんが振ってみても、特に音はしない。開けてみるか、と秀一さんが言って、そのケースが開けられる。刹那。

「きゃっ……!」

ケースから、どろりと溢れるようにして出てきたソレ。水でも、血でも無い。もっと、どろりとした…水溶き片栗粉を連想するような、けれども決してそれとは違うものに、私の悲鳴が響いた。
どろりとした液体を見た瞬間に後ずさった私に対して、その液体を手に浴びたのに顔を顰めただけだった秀一さんは、自身の手に付いたソレの臭いを嗅ぐ。

「……精液、だな」
「無理っ!ホントに無理っ!!」
「騒いでもいいが、その場から動くなよ」

雑巾と消毒液使うぞ、と言う秀一さんを見ながら、私はただコクコクと頷いた。

 + + +

「それで、あの手紙は何通目だ?」
「え、何のことですか」
「どうせ1通目じゃないんだろう?」

分かっていて聞いてくる辺り、タチが悪いというかなんというか。私は片づけていた少し前に届いた手紙を渡す。私を主としたその写真と赤字で書かれた文字を見て、秀一さんが呆れたように息を吐いた。

「こんな手紙を貰ったなら、少しは警戒心ぐらい持ってくれ」
「いやぁ…被害無いし大丈夫かなって」
「…名前、」

白い便箋を片手に、秀一さんが私の名前を呼んだ。怒ってる声じゃなくて、甘やかすような、優しい声。

「お前は、誰のものだ?」

私と、秀一さんの視線が交わる。その質問の意味に私は口角を上げて、思いっきり秀一さんに抱き着く。秀一さんは私の身体を受け止めて、フッ、と笑って口角を上げる。

「私は、秀一さんだけのものですよ」
「あぁ、それでいい」

軽く触れられるだけのキスをされる。ストーカーさんはどうします?と尋ねたら、どうやら見たこともないその男はどうやら秀一さんの導火線に火をつけたらしい。笑みを浮かべてさぁな、とだけ言った彼を見て嫌な人に目を付けられたものだ、と心の中で両手を合わせた。

2015.09.7