追想をしのぶ
身体を引き寄せられる感覚に、目を覚ます。もぞり、と身体を動かして視界に入ったのは秀一さん。同じベッドで寝ているのだからそれもそうか、と普段ではあまり見ることができない寝ている秀一さんの姿を見る。
(………あれ、)
秀一さんの顔を見て、違和感。違和感、というか明らかに違うものがあったことに気付いた。彼の頬に触れて、そのまま髪に触れる。ニット帽に隠されていない髪。明らかに違う、長い髪。昨日までは、普通に短かったのに。
寝ている彼を起こさないようにそっとベッドから抜け出す。幸いなことに私を引き寄せた腕にほとんど力は入っていなくて、眠りもそこまで浅くはないらしく無事起こすことなく抜け出せた。そのままベッドに腰掛けて秀一さんを見る。
(うん、やっぱり髪長いよね…)
私の見間違いじゃなかったことに安堵して、一年程前に切り落とした髪に触れる。何をしたらこんなにサラサラな髪になれるのか、と思うぐらいに綺麗な黒髪。あの頃はまだ監視されているっていう感じが凄かったなぁ、と思いつつ何故彼が一夜にして髪が伸びたのかを考えるべく腕を組んでみる。そのとき。
「なんだ、起きてたのか」
聞きなれた、秀一さんの声。ただ、おかしかったのはその声が聞こえた場所。それは、ベッドからではなく部屋の入り口から聞こえた。そしてそこに立っていたのは、髪の短い見慣れた秀一さんの姿。
「え?…え?」
ベッドど部屋の入り口。両方にいる秀一さんを見比べて声を上げる。髪の短い秀一さんは苦笑いを浮かべた。
+ + +
「じゃあ秀一さんが起きた時点でいた、と…」
「あぁ。原因がなんなのかはよく分からんがな」
秀一さんが言うには、髪の長い秀一さん…もとい赤井さんは秀一さんが起きた時点でいたらしい。というか、そこまで広くないのに3人寝てたのか、このベッド。
私の存在がそもそも意味不明なところがあるので私もだけれど、わりと秀一さんもこういうことにそこまで驚かないのが悲しいかな。私も秀一さんもあまり驚くことなく赤井さんを見る。
(髪が長かった頃は、一緒に寝たりしたことなかったんだけどなぁ……)
確かに秀一さんとは付き合う前から同じベッドで寝ていたけれど、さすがに髪の長かった頃は一緒に寝たりしていない。付き合ってもいない男女が一緒に寝るのもどうかという話は確かにあったけれど真冬でもソファーで寝ようとする秀一さんに私が言ったからなのでそれはこの際目を瞑ることにしよう。
なんとなく赤井さんを撫でるように頭に触れた瞬間、赤井さんの身体が身じろぐ。思わず秀一さんと赤井さんを見比べると、秀一さんから落ち着け、と呆れたように言われたのでとりあえず手を引っ込めた。けれど、赤井さんはそのまま眠ることなく起きたようで。
「お、おはようございます……?」
何故か疑問形になった私の声が、部屋に響いた。
+ + +
「ホー…」
とりあえずよく分からないままに赤井さんに状況説明をする。そもそも赤井さんと秀一さん、どっちがこの時代の存在として正しいのか?という話に若干なったけれどもまぁ赤井さんの知っている私は高校一年生なのでやっぱり秀一さんが正しいのか、ということで落ち着いた。
「そもそもお前の存在が不鮮明だからな…」
「その不鮮明な人間の家にいる秀一さんはどうなの」
「どうもこうもないだろう」
「待て」
私と秀一さんの会話を、赤井さんが止めた。何か気になるところでもあっただろうか、と首を傾げると名前で呼んでいるのか、とのこと。それはもう事実なのでそうですね、とだけ言えば眉間にシワを寄せた。確かにまだ髪の長かったころは完全に監視対象みたいな感じだったから仕方ないか、と思いつつこれだけ一緒にいれば情も湧きますよ、とだけ言っておいた。
「何を考えているのかは知らんが……手は出すなよ」
秀一さんが、私の腰を引き寄せる。睨むように赤井さんを見ているけれど、同じ人間なのだから牽制しても意味ないだろうと内心呆れていると挑発に乗るように赤井さんが私の腕を引っ張って抱き寄せる。
「同じ人間だから、浮気にはならんだろう」
ベッドに座った状態だった赤井さんに顎を持ち上げられて、視線が交わる。一年ぶりに間近で見る髪の長い秀一さんに、思わず胸が高鳴る。秀一さんから私の顔は見えなくても、雰囲気でそれを感じ取ったのだろうか。秀一さんもベッドの上に上がって、私を引き寄せる。
「確かに…同じ人間なら、こういうことも浮気にはならんな」
私の身体が、秀一さんに膝枕をされたように仰向けに転がされる。それに合わせるかのように、赤井さんが私の足を割って間に入った。
「え…、ちょっと?」
「他の男とは御免だが…こういうのは悪くないな」
フッと笑った秀一さんが視界に入って。赤井さんもそれに同調するかのように私の身体を抑えつけて。私の顔面から、一気に血の気が引いた気がした。
+ + +
「……っていう夢を見たんだけど」
「………それで、お前は俺にどうしろと?」
「いや、何か秀一さんが2人とかシュールだったんで…」
朝食を食べる秀一さんが、呆れたように息を吐いた。
夢は願望の現れ、なんていうけれどまさかそうなのだろうか。襲われたい願望があるわけではないと思いたいのだけれど。
「髪が、長い方がよかったか?」
「どっちも好きですよ。両方秀一さんですし」
懐かしくは思いましたけど。そう言えば、言えばいくらでも伸ばしてやるなんて言われた。あの長さに戻すとしたら、一体何年かかるのだろうか。懐かしい過去を思い出して、クスリと笑った。