臆病な君へ

 
「This is it tonaight!Come back tomorrow!」

港に、ジョディの声が響いた。その言葉を聞いた瞬間、ざわりと胸騒ぎがした。

(撤収…?ホントに……?)

確かに、私たちが追っている組織はのらりくらりと逃げることだってある。それを考えれば、いきなり予定が変わるなんてこともある。けれど、何か引っかかる。
果たしてこのまま撤収していてもいいのだろうか、と思いつつ様子を伺っていると、ポケットの中で携帯が震える。

(…秀一?)

ディスプレイに表示される名前に首を傾げつつ通話ボタンを押す。彼も、今の状況を不思議に思ったのだろうか。

『名前、』
「ん。秀一も、私と同じ考えかな」
『恐らく、な』

声を聞いただけで、大体の予想はついた。秀一も同じ考えのことに安堵して息を吐く。多分、今のジョディは偽物。変装した、ベルモットの仕業だろう。だったら、何も知らないジョディはここに来るはずだ。

「長丁場になりそうね」

パチン、と二つ折りの携帯を閉じてポケットに入れる。ベルモットがここに来た、ということはジョディはここに来るということ。そして、ベルモットも。夜空を見上げながら、小さく息を吐いた。

 + + +

「いやー…派手にやられたね。ジョディも防弾チョッキ着るべきだったんじゃない?」
「しょうがないじゃない…それで、名前はどうするのよ」
「秀一ー。私帰った方がいいのー?」

ジョディを置いて帰ろうとする秀一に声をかければ、秀一は俺に聞くな、とでもいうような顔をしながらこちらを振り向く。女2人で旅行にしても、私とジョディはFBI。1人だけならまだ旅行なりなんなりで貫けるだろうけれど2人となると少し厳しいだろうか。日本警察もはいそうですかと頷くバカではないだろう。

「好きにしろ」
「わぁ素っ気なーい」

仮にも可愛い恋人の言葉だろうに。もしこれを秀一に言っても多分鼻で笑うだけだから言わないけど。
ジョディにあとは適当に頑張って、と言ったら見つからないようにしなさいよ、と言われた。2人して私をなんだと思っているのだろうか。

「秀一車でしょ?一緒に乗せてよ」
「後ろでいいならな」

小走りで秀一についていって尋ねれば、呆れたように返される。乗せてくれるのなら助手席でも後ろでもいいけれどちょっとこの男冷たすぎやしないだろうか。
自分がしたかったこと半分、嫌がらせ半分で秀一の腕に私の腕を絡ませれば、呆れたように息を吐いて反対の手で頭をぐしゃりと撫でた。

「あまり、無茶はするなよ」
「それは仕事で?プライベートで?」
「どっちもだ」

一瞬、あの女を追おうと考えただろう。その言葉に、私の肩が揺れる。なんだ、ばれていたのか。
その言葉を肯定するようにぎゅっと腕にしがみ付く。

「お前は、俺より先に死ぬなよ」
「頑張る」

小さく呟いた言葉に、彼がフッと笑った。
 

2015.10.07