夏の終わりが近づいてきた

 
買い物をしているとき、浴衣の人を見かけた。楽しげに笑いながら歩く彼女らの姿を見て、その時初めて今日が祭りだったということを思い出した。

(そんな時期、なんだなぁ…)

私は既に夏休みに入っていて、暑い中なんとかバテないように生活しているところだ。時期が時期だからだろうか、秀一さんもいつもよりかは私の家にいることが多い。今日は、仕事だったけれど。
お祭りは違うけれど、去年は確か秀一さんに無理矢理浴衣を着せて射的をしてもらったんだっけ。去年のことを思い出しながら、つい頬を緩ませる。あのとき貰ったうさぎのぬいぐるみは、私の部屋に飾られている。

(まだ人は少ないだろうし、ちょっと覗いてみようかな…)

今回の祭りに毎年射的は無いから、多分今年も無いだろう。祭りは嫌いなわけでは無いけれど、人混みはどちらかと言えば避けて通りたい。まだ明るいうちに覗いて、後は変えればいいだろう。

 + + +

(やってしまった……)

私の進路を塞ぐようにして立つ男の人が2人。祭りだとこういう風に浮かれて女の子に声をかける輩もいるんだったな、と他人ごとのように思う。そんな声をかけてきた輩にホイホイ付いて行く性格でもないから、実際他人ごとなのだけれど。

「ねぇ、暇なんでしょ?」
「変なことはしないしさ」

大人しいコだろうし押せばなんとかなるとでも思っているのだろうか。ニヤニヤしながらお祭りなことに理由に私を誘う。大学生ぐらいに見えるから、ちょっと大人な男の人に憧れる、的な考えを持つ年頃なのを見越してなのだろうか。

(私が好きな人はもっと年上なんだけどね…)

中身の年齢が年齢なだけにここで同級生や2つ3つ上だと実際の私よりも年下になってしまう。よっぽどのことがなければ好きになることは無いだろう。どうしても、実際の私の年齢と変わらないか、それより年上の人に惹かれるのだ。

「待ち合わせとかでもないんでしょ?だったら、」
「名前さんっ…!」
「え」

私の腕を背後から掴まれる。そこに立っていたのはキャメルさんで、焦ったように私を見る。赤井さんが心配されてます。早くお戻り下さい。そう言われて、あぁ、そういうことかと口角を上げる。

「せっかく抜けだしたのに…」
「ダメですよ!勝手に抜け出してご立腹なんですから」
「何それ余計帰りたくない」

私とキャメルさんが適当に話をしていると、ちらりと男の人たちを見れば護衛付き、と思ったらしく退散していく。どうやってあの人たちから離れようかと思っていたから、キャメルさんが来てくれて助かった。そしてそれとなく助け舟をだしてくれて有難かった。

「ところで、ホントに赤井さんいるんですか?」
「いますよ。多分そろそろ来るかと…」
「……帰ります」

人ごみの中からチラリと秀一さんが見えて、踵を返して帰ろうかと試みるもキャメルさんに肩を掴まれて引き止められた。
あの秀一さんの表情からしてさっき男の人に声をかけられていたのは見ているだろう。帰ったほうが後が怖いけれど、それでも逃げ出したくなるのは仕方が無いことだ。
ふいにキャメルさんが掴んでいた手とは別の方向から引き寄せられて、半ば諦めていた私は秀一さんの胸元へとダイブした。

「頼むから、様子を見るんじゃなくて断って離れてくれ」
「…はーい」

呆れたように言う秀一さんに、私は渋々返事をする。心配はしていたようだけれど、怒ってはいないらしい。
キャメルさんは秀一さんと一言二言話をして、軽く頭を下げて人ごみの中へと紛れていった。

「秀一さんは、お仕事終わりですか?」
「まぁな。何か、見ていくか?」
「ここ射的ないんですよね…。あ、でも花火あるのか」

お祭りそのものは楽しいのだけれど今は浴衣じゃない。ただ、ちょっと花火にはそそられるところもあるけれど、この人混みは避けたいものがある。どうしようかと悩んでいると、くしゃくしゃと頭を撫でられる。

「あっちからなら、人が少ない」
「え、そうなんですか?」
「聞いた話だがな。休憩中に話している奴がいた」
「へー…」

行くか?と尋ねられてやっぱり秀一さんには敵わないなぁと思いつつ、行きます、と秀一さんの腕に私の腕を絡めながら答えた。

2015.10.06