恋と呼ぶには変だろうか
「名前!ごめん、待っただろ?」
後ろから声をかけられて、振り向く。そこにいたのは世良さん。来てからそんなに経ってないよ、と伝えれば彼女はホントにか?と少しだけ不満げに私を見た。
(世良さんは女の子、世良さんは女の子…)
半ば自分に言い聞かせるように心の中で唱えながら、ホントだよ、と笑顔で返す。なんで指定してもいないのに男の子みたいな恰好で来るかなこの人は…。スカートは、想像つかないけど。
「どこか行きたいところはあるかい?」
「それはどっちかって言うと私の台詞なんじゃあ…。世良さん、来るの初めてだよね?」
「そうだよ。でも、蘭君にはいろいろ聞いてきたけどね」
どうせなら下調べぐらいはしておきたいだろ?そう言って、世良さんが笑う。
…なんだろう、なんか本当にデートでもしてる気分になった。ぱっと見は女の子に見えないし、そのくせ女の子がきゅんとしちゃうようなことをさらっとやってくるし、世良さんが本当に男の子なら相当の手練れだな、と思ったことがあるのは私だけじゃ無い筈。
「じゃあ、今から暑くなりそうだし水と霧のラビリンスでも行こうか」
「あ、あのペンギンの?」
「あぁ、涼みがてらね」
そう言いながら、世良さんはさりげなく私の手を取って。女の子相手なのにドキッとしちゃうのは恋じゃなくて変なんだよ!と自分のなかで考えながら大人しく手を引かれる。
最初に見たときにときめいちゃったからだろうか。女の子だと言い聞かせてもドキドキしちゃうのは。
「…名前?」
「うん?どうかした?」
「いつもより口数が少ないから、何かあったのかと思ってさ」
「うーん…何か、世良さんがホントに男の子みたいだなぁって」
周りからみたら、ホントにカップルみたいだよね。そう言えば、世良さんは驚いたように私を見た後、私の手を引いて自分の方へと引き寄せる。
あまりの距離の近さにちょっと心拍数が上がったような気がした。手を繋いでない方の手で顔を持ち上げられて、視線が合う。多分、私の顔は赤い。
「っ、世良、さん?」
「……もし、男だって言ったら?」
「え?」
「もし実は僕が本当に男だって言ったら、名前はどうする?」
世良さんの言葉に、胸が高鳴る。確かに世良さんは胸が無いって言ってたし服の上から見てもその凹凸は悲しいぐらいに無い。制服でスカートを履いているのは見たことがあるけれども、私服では無い。別に私は世良さんの裸を見たことがあるわけではなくて、それは蘭ちゃんや園子ちゃんだって同じで。女で通そうと思えば、通せる容姿なわけで。
「身を隠さなきゃいけないから女の恰好してるだけで男だと言ったら、名前は僕を見てくれる?」
世良さんの指が、私の頬をなぞる。本やドラマの中でしか見たことがないけれど、恋人に向けてするような手つきに鼓動が世良さんに聞こえるんじゃないかっていうぐらいに高鳴っていく。顔が赤いのは、多分じゃなくなっているだろう。
「……なんてな」
「え」
「残念なことにこれが女なんだよな。あ、今度戸籍でも見てみる?」
してやったり、と言わんばかりに世良さんが笑って。今の言葉全部が冗談なのだと理解すると同時に別の羞恥でその場に座り込む。真に受けてドキドキした私の気持ちを返してほしいものだ。
「8割ぐらい本気にした……」
「ごめんごめん。まさかそんなに本気にするとは思わなかったよ」
「だって私最初世良さんのこと男だと思ってたし」
むしろ何故アレが女の子に見えると思った。そう言いたいのを抑えて世良さんに手を引かれながら立ち上がる。すると世良さんに頭を撫でられて、首を傾げながら私が彼女を見上げればフッ、と笑う。
「まぁ僕は、男だとか女だとか関係ないって思ってるけどね」
何かを企んでいるかのようなその笑みに、私の胸はまた高鳴った。
2015.10.28