夜空に白が滲んだ
人に向けて、拳銃の引き金を引いた。それ自体は別に初めてではなかった。仕事上何度も人に向けて撃ったことはあるし、それが人に当たったこともある。けれど。
「あまり、気負うなよ」
「……何しに来たの」
白い煙を呼吸に混ぜて吐き出しながら、睨みつけるようにして秀一を見る。彼は苦笑いをして、煙草やめてなかったのか、と私に声をかけた。
「吸うのは、久しぶりよ。誰かさんのせいでね」
「外は、冷えるだろう」
「別に。気分的には丁度いいわよ」
我ながら可愛げがない、と思いつつも生まれ持った性格は仕方が無い。短くなった煙草を携帯灰皿に入れて火を消す。秀一が来た、ということはそろそろ持ち場に戻れということだろう。小さく息を吐いて持ち場に戻る為に秀一の隣を通り過ぎようとしたとき、ふいに腕を掴まれる。
「…何?」
「俺が煙草を吸ってる間、少し付き合え」
「呼びに来たんじゃなかったの?」
「俺も息抜きぐらいしたいさ」
秀一の言葉は、お前も付き合え、ということでいいんのだろう。吸うか?と彼の煙草をこちらに向けられたので有難く一本頂戴してそれを口に咥える。秀一に火を貰ってまた、煙を身体の中に取り込んでいく。
「人を撃ったのは、初めてじゃないだろう」
「間違えて味方を撃ったのは、初めてだけどね」
そう。今回の私のしたこと。銃撃戦の中で、味方を間違えて撃ったこと。
命に別状があるわけじゃない。でも、私が撃ってしまった人が前線に戻るのはそれこそ数か月後になることだろう。本人は暫くいい休暇になるさ、なんて言ってはくれたけれど、やっぱり気にしてしまうのは仕方が無いことだ。
「あれだけ敵味方入り混じってたんだ。本人も命があるだけ有難い状況だろ」
「でも、撃ったことに変わりはないでしょ」
「むしろ、あの状況だと味方に撃たれたからこそ命があったようなものだ」
秀一の吐いた白い息が、ゆらゆらと空へと消えていく。私も同じように白い息を吐き出して、空へと消していく。
「そこで、お前だって怪我をしただろう」
「軽傷だけどね」
「アイツは、撃たれて倒れてなかったら最悪死んでた。だから、お前はそんなに気負う必要は無い」
「…そんなこと、」
無い。そう言おうとするよりも先に、秀一に口を塞がれた。ざらついた秀一の舌が、私の舌をなぞるように触れる。
「っ、ん……」
突然の出来事に呼吸の仕方が分からなくて、彼の身体を離す為に押す。すると、思っていたよりもすんなりと秀一の身体が私から離れた。けれど、口の中はまだ秀一の舌があるように思えるぐらいに、苦い。
「煙草吸いながら、キスなんてするものじゃないわね」
「苦いか?」
「えぇ。煙草のせいか、秀一の舌のせいか分かんないわ」
苦いけど、嫌いじゃない。甘いキスよりかは、こっちの方が好みだ。
顔は悪くないのだから、女の励まし方ぐらいもう少しうまくなればいいのに、と内心思いつつも下手な男よりかはある意味ずっと上手かもしれない。その言葉を吐き出す代わりに、私は煙を吐き出した。
2015.09.09