shotgun marriage?
「名前、お昼は?」
「んー…。パス。ちょっと食欲ないし」
暑くなってきたから、夏バテかも。そう小さく呟いて、机の上にあった野菜ジュースを飲む。珍しいわね、夏バテなんて。早く治しなさいよ。そう言いながら、ジョディは手を振って事務所を出て行った。
ジュッ、と飲んでいた野菜ジュースに空気の混じる音がして、パックを平たくしてゴミ箱に入れる。
(飲み物はそこまでないんだけどなぁ…)
少し前から、身体が食べ物を受け付けない。食べようと思っても食べ物の匂いでムカムカして食べるどころではなくなるのだ。幸いなことに飲み物に影響は無いみたいだから野菜ジュース類で補っているから倒れたりするようなことはないだろう。
多分、少し前にドカ食いをしたことか、もしくは賞味期限が前日までだったヨーグルトを食べたからかその辺りが原因だと思うけれど。ヨーグルトに至っては消費期限じゃないしそもそも発酵食品だからいける気がするだなんて思ってしまったのがいけなかった。次からは気を付けよう。
「っ……何だ、秀一か」
「食欲がないらしいな?」
後ろから頬にひんやりとした感触で振り向けば、紙パックジュースを差し出す秀一。ジョディが言ってたぞ、と言いながらソレを渡されたので有難く頂戴しておく。熱は?と尋ねられたのでないよ、と返事をしながら貰ったジュースを早速飲む。なんとなく柑橘系が飲みたかったのでオレンジジュースとは本当にありがたかった。
多分ドカ食いした挙句賞味期限前日までだったヨーグルト食べたからそれだと思う、と正直に話せば軽く頭をはたかれた。
「可愛い恋人の心配ぐらいしてよ」
「お前が変なモノの食べ方をするからだ」
呆れたように、秀一は持っていたコーヒーを飲む。変なモノの食べ方をしたことは、否定できないのだけれど。
あまり無茶はするなよ、とそっくりそのまま返してやろうかと言わんばかりの言葉を言って、彼は事務所を出て行った。
+ + +
「………名前、」
「ごめん……」
「別に俺は気にしないが…珍しいな」
普段から気にしているだろう、と言われて苦笑いをする。わりと細身の恋人を持つと大変なだけだ。
恋人同士、となれば夜にそういうことに至ることだってある。秀一は私の服を脱がせて、それによって見えることとなったお腹を見ている。そこは、前よりか若干ではあるもののお腹が出ていた。
「どうせならガッツリ腹筋割ろうかなー…」
「せめて少しわかるぐらいにしてくれ…」
さすがに男みたいなのは抱きたくない、と言って私の首筋にキスをした。最近ちょっと体調不安定でトレーニングをしていなかっただけだからまた再開すれば戻るだろう。身体が慣れたら少しだけ負荷を大きくしてみようか。
「最近、体調悪かった反動なのかやたらお腹が空くんだよねー」
「今言うかソレを…」
雰囲気とかそういうものを読んでくれ、ということなのだろう。生憎私はそういうのは疎いけど。
私に覆いかぶさる秀一に腕を伸ばして、頬に触れる。
「秀一のことも、食べちゃいたいよ?」
「どっちかというと、食べられる方だろう」
それ以上何も言うな、というように秀一は私の口を塞いだ。
+ + +
「名前はまだ来ていないのか?」
「あら、休みじゃないの?」
「朝俺に電話してきたときは昼には行くからと言っていたんだが…」
ちょっとなんかお腹が痛いから病院に行ってから仕事に行く、と連絡を受けたのが今日の朝。多分昼頃には行けると思うから、と言っていたのもそのときだ。携帯を見ても着信は入っていない。午後になってから既に2時間は立っているのだからさすがに来ているだろう、と思っていたがさすがに来ていないとは考えていなかった。
「変な病気じゃなければいいんだがな」
「そうねぇ…。ここ最近は特に何か悪いとかは言ってなかったけど」
何ヶ月か前はちょっと不安定だったわね、とジョディが漏らす。そういえばそうだったな、と思っていると持っていた携帯が震えた。ディスプレイに表示された名前は丁度話をしていた名前だった。
「名前?」
電話に出れば、向こうから聞こえる名前の声はやけに疲れきったような声をしていた。そんなにたらい回しにでもされたのだろうか、と大丈夫かと尋ねればとりあえず生きていると答えになっていない答えが帰ってきた。幽霊が電話をかけてくるとでもいうのか。
結局何だったのか、と尋ねれば、あー…と彼女は言いにくそうに言葉を漏らす。
「言いにくい、ことか?」
検査をして、何かあったのだろうか。そう思って尋ねれば、ある意味笑えるけど呆れないでね?と前置きをした。どうやら雰囲気から察するに重い病気とかでは無いらしいことに安堵しつついいから言え、と言うと彼女は腹痛の原因を口にした。
「……は?」
+ + +
「……何で気付かなかったんだ」
病院のベッドのを起こしている名前を見ながら言う。名前は若干疲れているようだが、身体を動かせる程度には元気らしい。
私もホントどうかしてると思う、と言いながら眠たそうにしている。
「眠いのか」
「そりゃまぁ命を生み出す大仕事をしましたので」
ベッドに腰掛けて彼女の頬に触れれば、擦り寄るように甘えてくる。暫くは入院生活になるだろうし、赤子がいないのもおそらくは今日1日だけだろう。
疲れ気味の名前を引き寄せて腕の中に閉じ込めれば、あっさりと彼女は眠りに落ちた。
「指輪、探すか…」
眠る彼女の額にキスをして、ベッドを横にした。