彼女の裏側05

*安室さん視点

「男、だったんですか……?」

2枚の紙を見比べて、彼女に尋ねる。彼女は笑いながら、僕の手からその紙を取った。何が、どういうことなのだろうか。

「そうそう。過去形。高校生のとき学校で倒れてさ。その前から関節痛?みたいな痛みとか貧血とかあったけど」
「それは……大変ですね」
「んー……。で、病院……って言っても、幼馴染の家にだけど運ばれて。そこじゃあ詳しく検査出来ないからって大きい病院行ったらさ、女だったんだよ」

笑えるでしょ。そう言って、彼女はへらりと笑う。産まれたときに男と判別されてそのまま問題なく育っていた、ということは。すなわち見た目は男だったということなのだろう。けれど、調べたら女だった。

「半陰陽、というやつですか」
「ん。そうそう。まぁ幸いなことに私の場合ほぼほぼ取るだけだったんだけど」
「取るだけ、ですか」

もう少し言い方はないのだろうか、と思うも、言いたいことは分かる。ただ、それによって彼女がやけに男口調なことも、行動が男らしいのも、分かった気がする。少なくとも15年は男として生きていて、突然女だった、なんて言われたら誰だって困惑する。彼女は、まだソレを受け入れて前向きに生きている方なのかもしれない。

「この身体のこと知ったら逃げてく人の方が大半だったからさ。逃げるなら、今のうちだよ」
「逃げる必要なんて、ないと思いますけど」

机を挟んで真正面に座る彼女の腕を取る。自分は、自分でも分からないぐらい、彼女に惹かれ始めている。むしろ、欲しいとさえ思った。誰のものでもない、自分だけのものにしてしまいたいと。

「貴方に今、恋人はいますか?」
「いいえ。まだ私が男だったときに付き合っていたさっきの女の子が最初で最後です」
「幼なじみとも、そういう関係ではないと」
「えぇ。男として友達だった方が長くて、今更そんな目で見れませんから」

女性として返事をするかのように見せる彼女に、口角を上げる。期待しても、いいですか。そう尋ねれば、彼女もクスリと笑って口を開いた。それは、こちらのセリフです。そう言いながら。
ここが個室で良かったと、本気で思った。掴んでいた彼女の腕を離して、そのまま手を取る。少し驚いた表情を見せる彼女にキスをすれば、肩がビクリと揺れるのが分かった。こういうことには、慣れていないのだろうか。
ゆっくりと離れて彼女を見れば、顔を赤くして掴まれていない方の手で顔を隠す。

「可愛い、」
「っ、可愛く、なんか…」
「可愛いですよ」

視線を逸らしながら、すみません、と謝罪をされる。何を、と尋ねようとしたとき、彼女がちらりとこちらを見ながら小さな声で可愛いって褒められるの、なれてない、と呟いた。思わず、彼女の手を強く握る。

「…………、」
「え?」
「出来るなら、もう少しだけ一緒にいたいんですが」

僕の言葉に、彼女は何かを察してくれたのだろうか。本当に手を出すつもりはないけれど、それなりの年齢の男女だ。彼女だって理解はしているのだろう。
顔を赤くした彼女が、小さく頷いた。

掲載期間:2016.05.01〜2016.06.01