消えた拒否権

 
「少し、休憩にしませんか?」

ソファーに座って、パソコンと睨めっこをしている秀一さんに声をかけた。私の声に秀一さんが我に返ったようにピクリと動いて、顔を上げる。私が秀一さん用に作ったコーヒーを差し出せば、小さく息を吐きながら秀一さんはそれを受け取った。

「…悪いな、」
「お仕事ですから。でも、詰め込みすぎは駄目ですよ?」
「あぁ、」

秀一さんの使っていたパソコンの画面が、デスクトップに切り替わる。見られないようにはするけれど、パソコンを閉じたりロックをかけられないのは信頼されているからこそだろうか。
自分用に入れたココアを持って秀一さんの隣に腰かければ、秀一さんが私の髪に触れた。

「どうかしました?」
「……休憩、するかと思ってな」

髪が、秀一さんの手をすり抜けて落ちていく。首を傾げながら手に持っていたカップをテーブルに置けば、秀一さんが私の腰を引き寄せる。それによって私は秀一さんに寄りかかるように座ることになって、少しだけ息を吐きながら大人しく秀一さんにされるがままとなる。

「今日は、随分と冷えるな」
「そう思ってるようには見えないんですけど」

確かに、今日の気温は低い。既にお風呂を終えた私はモコモコした部屋着になっている。けれど、そんな私とは対照的に秀一さんの格好はわりと薄着だ。ジャケットは脱いでいて、ワイシャツだけになっている。

「暖房がついてるからな」
「まぁ、寒がりなのがここに1人いますしね」

仕方がない。女の子は男の人よりも冷えやすいのだ。
そんなことを考えていると、するりと秀一さんは慣れた手つきで私の顔を持ち上げて、額にキスをする。どうやら、構いたがりになっているようだ。

「もう少し、こっちに寄れ」
「ん、」

秀一さんが子どもがぬいぐるみを抱くように私を脚の間に座らせて後ろからお腹に腕を回す。幾度となくされてきた体制に私も慣れていて、遠慮なく秀一さんに寄り掛かれば秀一さんは私の首元に顔を埋める。

「お仕事、いいんですか?」
「あぁ…。別に、急ぎなわけじゃないからな」

甘えるように私に触れる秀一さんに小さく息を吐く。何だかんだで結局許してしまうのは、私が先に惚れたからだろうか。
秀一さんの唇が触れる場所は次第に移動していき、やがて秀一さんの方を向かされて口を塞がれる。少し身体を動かす為に身じろげば、秀一さんの腕の力が緩められた。その間に唇は触れたり離れたりを繰り返したまま体制を変える。

「ん…っ、ふ…」

少しの隙間から舌を入れられて、絡められる。秀一さんに向かい合うように座った私に、噛み付くように何度も口内を犯していく。足りないと言うように、何度も何度も。
服の上から撫でるように私の身体に触れていた秀一さんの手が、するりと私の服の中へと侵入してくる。

「ちょっ…ここ、ソファー…」
「嫌か?」

耳元で、熱を帯びた秀一さんの声がした。嫌か、なんて聞いてくるくせに、私に拒否権なんてない。私の返事も聞かずに秀一さんはゆっくりと私をソファーに押し倒して、私の視界は天井と秀一さんだけになる。

「嫌なら、やめるぞ」
「嫌なんて、言わせないくせに」

そうだな、と小さく呟いてそのまま私の口を塞いだ秀一さんに、私は腕を伸ばした。

2015.02.