彼女の裏側07

*安室さん視点

「カプチーノ、お好きですよね?」
「ありがと。それより私は後ろからの視線が痛いわ」
「若いですよね」
「そういう問題なの…?」

ポアロのカウンター席に座る彼女に声をかけて、カプチーノを淹れる。お礼を言いながら尋ねる姿に口角を上げながら蘭さんたちを見れば、僕と彼女を見比べていた。多分、関係がどう変わったのかを知りたいのだろう。

「キスでもしてみます?」
「店内なんですけど」
「冗談ですよ」

蘭さんたちがチラチラとこちらを気にしているのを横目で見ながら、目の前に座る彼女と話す。恐らくは、彼女の左手の薬指に付けられている虫除けが気になるのだろうが。ただ、その張本人は気になるとは言いつつもあまり気にした様子はなく差し出されたカプチーノを飲んでいる。

「ふふっ、若いって素敵ね。私も戻りたい」
「それは、どちらとしてですか?」
「……そうねぇ、透と青春してみたかったかもしれないわ。高校生のときは、身体が変わって慣れないことが多かったから」

幼馴染がうるさいのなんの。そう言って、昔を思い出すように目を伏せながら彼女が唇をほころばせる。そういえば、高校生のときに性別が違うことに気付いたのだったか。十数年生きてきてその性別が実は違いました、なんて言われて大変だった時期なのだろう。それよりも、だ。

(幼馴染は、男だったか……)

確か、彼女はそんなことを言っていた。少し調べればそれがどんな人物か分かるのだろうが、好きな相手のことだ。直接聞きたくて、調べてはいなかった。

「幼馴染は、男性でしたよね?」
「えぇ、町医者をしてますよあ、今は帝丹高校の校医もしてたような…」
「帝丹高校の、校医を…?」
「確か、前に会った時にそんなことを言ってましたね」

帝丹高校の校医、と言えば聞き覚えがある。見たことも、ある。それは本人の姿ではなく、ベルモットの変装としてだが。そして、全てに納得をした。確かに医者を目指している者が幼馴染であるならば親身になるだろうし、口うるさくもなるだろう。そこに、嫉妬しないわけじゃないが。

「知ってます?新出医院。あそこで医者してますよ」
「行ったことはありませんが、見かけたことはあります。いいですね、高校生の頃の貴方を知っているなんて」
「今思えば、見れたものじゃないわよ。まだ、女であることに抵抗があったもの」

今制服を着た方が、まだマシよ。そう言ってクスリと笑う彼女にを見て、口角を上げる。制服は、まだお持ちですか。そう尋ねれば、フッ、と彼女が笑ってカプチーノを一気に飲み干した。

「あるわよ。見たいの?」
「えぇ、とても。見せてくれるんですか?」
「……コレ、置いてくわ。場所は知ってるでしょう?」

彼女が、鞄の中からひとつの鍵を取り出す。何度か見たことがあるけれど僕は持っていないソレは、彼女の家の鍵。スペアキー、持ってた方が便利でしょう。そう言って彼女は伝票を持って立ち上がり、会計へと向かう。こちらを気にしたままの蘭さんたちは、そのままにしておくつもりらしい。

「鍵をくれた、ということは、伺っても?」
「今から帰るだけだから、透の仕事が終わる頃には家にいるわ」

会計をしながら尋ねれば、彼女の口から放たれた言葉は否定には聞こえない。恐らく肯定なのだろう。まだ手を出すつもりはないのだが、果たして耐えられるのだろうか。一応恋人になったのだから手を出しても怒りはしないのだろうが、無茶はさせたくない。

「また後で、」

楽しげに笑いながらポアロを出て行く彼女の後ろ姿を見て、数時間後のことを思い描いて口角を上げた。

掲載期間:2016.07.03〜2016.08.01