赤井さんの飼猫01
吾輩は猫である。なんて、書籍が人間の読む本にはあるんだったっけ。生憎私は文字というものがあまり分からないから読むことは出来ないけど。あまり、というのは簡単なものなら分かるということだ。ただ、知識としては偏っていると思うけど。
なぜそんな話をしたかというと、私が猫だからだ。人間の世界の顔の良し悪しは分からないけれど、でも私から見ればこの人はカッコいい人だと思う。
「どうした?」
帰ってきた彼に擦り寄れば、彼が少しだけ口角を緩めて私の頭を撫でる。悲しいことに私は人間の言葉は話せないから口を開いても出てくるのはにゃうん、という猫の声だ。でも彼はそれなりに私の言いたいことを分かってくれるし、私も言いたいことを伝えるべく工夫してみたりはしている。
「やけに甘えてくるが、寂しかったか?」
ひょい、と軽々と抱え上げられて、頬、というのかは分からないけれど顔にキスをされる。彼は数日帰って来ないこともあるけれど、そのときはちゃんとその分のご飯を用意してくれる。勿論水も。長期間のお留守番は寂しいけれど、帰ってきたときにはご褒美なのか美味しい缶詰を食べさせてくれる。
「暫くはちゃんと帰れるから、そんなに甘えなくていい」
あら嬉しい。ちゃんとご飯も水も用意してくれるけれど、やっぱり彼の傍にいられることが嬉しい。いなかった時間を補給するように目一杯甘えて、彼の腕から降りて足に擦り寄る。他の女に渡すつもりなんてないし、もし女が来たら威嚇してやるんだから。
「ほら、部屋に行くぞ」
にゃうん、と返事をして彼の隣を歩いて部屋に向かう。ソファーに座った彼の隣で丸くなれば、テレビのリモコンを扱いながら私の頭を撫でる。尻尾でぽすん、と一度だけソファーを叩けば、彼がフッ、と笑みを浮かべた。
「少し休んでから飯にするか」
にゃうん。返事をするように鳴けば、彼はポンポン、と軽く私の頭を叩いてからテレビに視線を移して、片手間に私を撫でる。この時間は、嫌いじゃない。私という存在が、彼の癒しになってくれればいいのだけれど。
「そういえば、暫く風呂に入れてないな……」
なんだと。私を見て呟いた言葉に、にゃっ、と抗議をしながら彼の手を尻尾で叩く。彼からされることで唯一嫌いなことは、お風呂。身体に毛が張り付くのが気持ち悪い。不満を表すように尻尾をぽすぽすとソファーに打ち付けていると、私を撫でる彼の手が止まった。
「たまには入れるか……」
重い腰を上げるように動いた彼。これは恐らく私はお風呂行きだろう。多分意味はないのだけれど、とりあえず私は身を隠すことにした。
掲載期間:2016.08.01〜2016.09.01