赤い糸

 
「っていうことなんだけどどう思う?」
「面白いとは思いますけど怒られませんかね…?」
「大丈夫。責任は全部僕が取るよ」

笑顔でそう秀吉さんが言ったのが、数日前。ことの発端は秀吉さんのとある提案だった。最終的には、私も乗ったのだけれど。

「私はどうすれば……?」
「とりあえず、首にリボンでもつけておこうか」
「何そのプレゼントは私みたいな」

むしろそういうつもりなんだけど。呆気ラカンと言う彼に息を吐きながら、私は秀吉さんに差し出されたリボンを受け取った。

 + + +

「…で、協力したと」
「えぇまぁそうですね」
「何をしてるんだアイツは…」

呆れたように、秀一さんが息を吐く。呆れたように、というか呆れてるのだろうけれど。
秀吉さんの企みは、いつも冷静沈着な秀一さんがそれなりにでいいから取り乱す姿を見たいというものから始まった。そこで駆りだされたのが私だ。秀一さんが泊まるホテルの部屋に事前にいてほしい、と。勿論、宿泊場所の手配も秀吉さんがしていた。

「秀吉さんに、電話するんですか?」
「まぁ、な。…どうした?」
「ん……」

秀一さんがポケットから携帯を取り出すのを見て、私は即座に彼に抱きつく。実はこれも秀吉さんが考えていたことで、恐らく秀一さんは秀吉さんに電話をするだろうからそれとなく阻止してほしい、と。多分抱きつきでもすれば一瞬でもその手は止まるだろうし、そのときにこう言えばいいと。

「私といるんだから、電話するより仲良くしたい、です」

秀一さんに抱きついた腕の力を、少しだけ強くする。最近はちょっと忙しくて会ってもあんまり時間が取れなくてゆっくりすることが少なかった。私だって秀一さんに構ってもらいたいのは事実だ。嘘は、言っていない。

「久しぶりに、仲良くするか?」
「ん……」

秀一さんがポケットに携帯を入れて、額にキスをする。それは徐々に瞼や頬に降りて、最後には口を塞がれた。熱っぽい口づけに、私は秀一さんにしがみついた。

 + + +

「何か飲むか?」
「……お水、」
「あぁ」

布団の中で小さく呟けば、秀一さんがポンポンと布団を軽く叩いて離れる。結局、私は何回抱かれたのだろうか。途中からは、もう私が何を言って何をされたかが曖昧だ。恐る恐る自分の胸元を見れば、独占欲の表れのように無数に痕がつけられている。

「身体、起こせるか?」
「……抱っこ、」

私が小さくそう呟くと、秀一さんは口角を上げて私のことを抱きかかえる。そのまま足の間に座らされて、私は後ろから腕を回す秀一さんにより掛かった。

「悪いな、無理をさせただろう」
「そう思うんなら手加減してください……」

秀一さんの手から水を受け取って、口に運ぶ。途中から記憶が曖昧なところを見ると、大方私は気絶したのだろう。そういうことをするのはいいのだけれど、いつも私ばかりされているのはいいのかが気になるところだ。秀一さんは、されるよりもする方が好きなような気はしているけれど。

「一応、手加減してるつもりなんだがな」
「アレで、ですか」
「悪いか?」
「いえ別に……」

私が秀一さんと同じぐらいに付き合えるだけの体力が無くてよかったというべきか、付き合えなくて申し訳ないと思うべきか悩むところだ。本音としては、前者だけれど。

「それで、アイツに何を唆されたんだ?」
「え、秀吉さんに?」
「あぁ。どうせアイツのことだ。また何か変なことでも思いついたんだろう」
「あはは……」

その変なことに乗った私も同罪ではないだろうか。多分後から秀吉さんに電話するんだろうな、と思って心のなかで合掌しておく。怒ったりはしないだろうけれど、呆れはするのだろう。というか、私が部屋にいるのを見ていたときも驚いた表情を見せたのは一瞬ですぐに何かを察したのか呆れたように息を吐いたのだから。
その時、ふいに秀一さんは布団の上に落ちていたリボンを手にとって私の小指に結びつけた。

「秀一さんにも、結んでいいですか?」
「あぁ」

私の小指から伸びるそれを、秀一さんに結びつける。赤い色をしたそのリボンは、運命の赤い糸のように見える。

「本当に、繋がってたらいいですね」
「例え繋がってなくても、俺は名前がいてくれるならそれでいい」
「ふふっ、そうですね。私もです」

もし私の小指の先に秀一さんが繋がっていなくても、無理矢理結んでしまえばいい。そう思いながら、繋がった赤いリボンを見て私は頬を緩めた。

2016.04.18