追憶
怖い、夢を見た。真っ黒な何かが追ってきて、私のことを飲み込んでしまうような夢。前なら決して気にしなかっただろうけれど、真っ黒に追われて飲み込まれそうなのが怖くなってしまったのは、今の自分の身体のせいだろうか。小さくなってしまった、この身体の。
(あー…どうしよう。このまま一人じゃ寝たくない…)
時間はもうずっと前に日付は変わっている。新一だってもう寝ているだろう。けれど、このまま朝まで起きているのは早過ぎる。とりあえず一度起きたのだから水でも飲んで気持ちを沈めよう、と部屋を出てダイニングキッチンへと降りる。
「あ、踏み台いるんだっけ…」
幼児化した今の身体では、部屋の移動などには問題なくてもさすがに冷蔵庫の中を開けることは出来ても物を取り出すのが怖い。落としたときが悲惨なことになる。だったら、最初から踏み台を使った方がいい。私は椅子を持ってきて踏み台にして、冷蔵庫に入れていた水を取り出す。
「眠れないのかい?」
「きゃあっ!」
突然かけられた声に、冷蔵庫から取り出したばかりのペットボトルを落とす。振り向くとそこには優作さんが立っていて、驚かせてしまったね、と笑いながら言った。
「ビックリした……」
「すまないね。私も電気を点けて声をかければよかったかな」
「いえ、大丈夫です。優作さんも何か飲みますか?」
「いや、私は大丈夫だ」
冷蔵庫の扉を閉めて、椅子から降りる。優作さんが眠れないのかい、と椅子に座りながら私に尋ねたのでコクコクと頷く。どうやら優作さんはまだ仕事をしていたらしく、私が下に向かう足音を聞いて降りてきたらしい。
「怖い夢でも見たのかな?」
「えぇ、まぁ…。自分でも、よく分からないですけど」
「ふむ…。だったら、久しぶりに私が添い寝でもしてあげよう」
「はい!?」
ひょい、と軽々と優作さんに抱え上げられて、私は思わず固まる。いや、確かに優作さんに添い寝をしてもらったことはある。ただそれは子どもの頃の話で、今も見た目は子どもだけれど中身は一応女子高生で。
そんなことを考えている間にも優作さんは気にした様子も無く私が使わせてもらっている部屋に向かう。そして部屋に入るとベッドに転がさせて、その隣に優作さんも転がる。
「懐かしいな。君が、子どものころを思い出すよ」
「いや、ある意味今も子どもなんですけどね……」
「見た目はともかくとして、中身はいい女性になったさ」
「奥さん放置でそのいい女性と寝るんですね」
少しだけ皮肉も込めて優作さんに言えば、優作さんはただ笑っている。まぁ、正直なところ有希子さんならじゃあ私も名前ちゃんと添い寝しようかしら、なんて言ってきそうだけれど。そしてそれを実行しそうだ。
本当に小さな子どもを寝かしつけるように規則正しくトントンと私を叩く優作さんの手の動きに、徐々に私の瞼が重くなってくる。
「なんか…お父さん、みたい」
「私は娘のようには思っているがね。どうだい、うちの愚息は」
「新一には、蘭ちゃんがいますけど……」
「まだ決まったわけじゃないさ」
どう見てもあの二人がくっつくのは時間の問題だと思うのだけれど。そう言おうと思ったけれど、それよりも私の中で眠気が勝って。瞼を閉じて、微睡に溺れた。
2016.04.12