贈り物をふたつ


「名前、今から行く、」
「ぅ、え?わ、私ですか?」
「キャンティが、行けなくなった」

廊下で突然掴まれた腕。肩をビクリと震わせて振り返れば腕を掴んでいたのはコルンさんで、どうやら今から仕事らしい。同時に、キャンティさんが行けなくなったから私について来い、と。

「む、無理ですよ…!私キャンティさんにみたいに上手くありませんし…!!」
「大丈夫、無理じゃない」

彼が私の意見を聞き入れるつもりはないらしく、グイグイと腕を掴まれたまま歩き始める。このまま仕事に向かわれても、私は銃は今持っていない。銃持ってないんですけど、と私が言葉を漏らせば、コルンさんはぴたりと脚を止める。

「先に、車行ってる。取って来い」
「わかりました」

これは急いで戻らねば。ただでさえ私の命はコルンさんに助けてもらった命。彼のためになら使える、なんて言ったら重いかもしれないけれど、それぐらいの気合を入れて私は銃を取りに向かった。

 + + +

「結局私いらなかった気がするんですけど……」
「いる。ちゃんと、役に立った」
「なら、いいですけど……」

コルンさんが運転する車の中でそう言えば、彼は小さく呟く。どうにもほとんどコルンさんがなんとかしたような気がするのは気のせいではないと思いたい。
ちなみに運転は私がすると言ったのだけれど、たまには助手席に行けというコルンさんの言葉で私が助手席に行くことになってしまった。

「……そこの、ダッシュボードの中」
「え?」
「紙袋、入ってる」

ダッシュボードの中。そう言われて、私は言われた通りに開ければ、茶色い紙袋が入っていた。上の方を折り曲げられてテープで留められているそれの中身は見えないけれど、それなりに重さはある。

「あの、出しましたけど……」
「やる」
「え?」

コルンさんの言葉に、一瞬頭がフリーズした。やる、と彼は確かに言った。私がどうしたらいいのか分からずに紙袋とコルンさんを見比べていると、彼は開けてみろ、と呟いた。

「……スコープ?」
「この前、壊してた」
「あ、はい。うん、壊しました…」

確かコルンさんは、そのときその場にいなかったと思うのだけれど。新調しないと、とは思っていたから有り難くはあるのだけれど、何故。そう思って疑問を口にすれば、少しの間。そして。

「……誕生日」
「え」
「今日、お前、誕生日」

コルンさんの言葉に、2度目のフリーズ。そういえば、今日は自分の誕生日で。こんな仕事をしていると祝ってもらえる機会なんてほとんど無くて、完全に忘れていた。

「いいん、ですか?」
「よくないと、しない」
「そ、そうですけど……」

有難う御座います。そう、小さくお礼を言うと、運転をしているコルンさんにくしゃりと頭を撫でられる。

「中、もう一つ」
「え?」

コルンさんにそう言われて、紙袋の中を覗く。さっきは紙袋の中身を見ないでスコープを取り出したから気づかなかったけれど、中には別のものが入っていた。取り出してみると、ハンドクリーム。

「これ、は…?」
「それも、誕生日。手、荒れてるって、言ってた」
「えっ……」

確かに最近私の手あれが酷いのは本当のことなのだけれど、コルンさんに言ったことがあっただろうか。そう思って考えていると、コルンさんがキャンティと話していた、と呟く。

「あ…。確かに、言ったかも」
「たまたま、聞こえた」
「ふふっ、有難うございます。なんか勿体無くて使えない感じがしますけど」
「使え。それぐらい、買ってやる」
「いやいやいや!それぐらい自分で買いますから!!」

怖い。この人本当にしちゃいそうで怖い。はちみつの匂いだということを示すように蜂のイラストが書かれたそれを持って、頬を緩ませる。

「コルンさんの誕生日は、私がお祝いしますからね?」

聞こえるか聞こえないかぐらいの声で、分かった、と言われて、私はさらに頬を緩めた。

2016.05.30