素直になれない


カチカチと使う資材の数を合わせる音が部屋に響く。さすがにもう何度目かも分からないこの作業に指が疲れてきたな、と思うけれど指より精神的な疲労の方が大きいだろうか。貯めるに貯めていた資材はすでに半分は無くなっていて、それでもその手を止めることは無い。

「主、さすがにそろそろ休憩した方が、」
「……やだ」

ここまで来ると、もはや意地だろうか。はぁ、と呆れたように息を吐いた一期をちらりと見れば、やっぱりその表情は呆れているように見える。鍛刀を始めても表示された時間は5時間には程遠くて。

「意地になってせずとも、そのうちぽろっと来てくれますよ」
「……だって、刀種一人だけって寂しいじゃん」
「岩融の為ですか」
「やっぱり薙刀がひとりだから負担かけてるのは確かだしね。ちょっとでも楽になればなって」
「それで主が倒れれば、こっちが困りますな」
「そうだけどさー……」

巴ちゃん綺麗なんだもん、なんていったら一期は呆れるのか、怒るのか。岩融の為なのはもちろん私自身彼を綺麗だと思ったからというのはここだけの話だ。一期とは付き合いが長いけどどうのもヤキモチ焼きな気がする。一期に言ったら自意識過剰ですな、なんて言われそうだから絶対言わないけど。

「まだやるつもりですか、」
「んー……どうしようかな」

ずっと短時間が続いているだけに一度時間を置いてまた明日した方が来てくれるだろうか。一応まだ資材も札もあるんだよな、とどのボタンを何回押すか完全に覚えてしまった私は資材を見ながら数字を合わせ、鍛刀を始める。瞬間、私の視界に白くなって、次に真っ暗になる。視界を隠した感触からして、一期の手袋らしい。どうやら後ろから手で私の視界を遮ったようだ。

「どうしたの、一期」
「明日の近侍は、私にしていただけませんか」
「それはいいけど……。っていうかずっと一期だし今のところ変えるつもりもないよ」
「それは安心しました。して、主がまだ鍛刀を続けるのならば私はそろそろお暇をいただきたいのですが」
「あー、ごめん。時間遅いもんね。いいよ、私も今したのだけ確認して寝るから」

こんのすけが『新しい刀剣が発見されたようです、』なんて言いながら書類を持って来たのは夕方で、夕餉を取ってからはずっとここに引きこもって鍛刀をしていたからもうかなりいい時間だろう。生憎一期の手でこの部屋に置かれた時計は見えないのだけども。

「一期?」
「お暇をいただくまえに、ひとつだけ」
「うん?」
「……誕生日、おめでとうございます」
「……え?」

一期の言葉を、頭のなかで復唱する。誕生日。誰の。あ、私のか。今日って何日?7月の、あれ、日付変わったの?そもそも私一期に誕生日言ったことあったっけ。無いわ。視界を塞がれているから一期の顔を見ることが出来なくて、それでも一期は私がうろたえていることがわかったのだろうか。何をうろたえているんですか、と恐らくは少し笑みを浮かべながら私に言った。

「だって、何で、え、今何時?」
「0時ですよ。たった今、日付が変わったところです」
「あ、なんかごめん……。そんな時間まで、」
「いいえ。私が主に最初に言いたかっただけですよ」
「えー……。だったら一期の顔見せてほしい」
「それは出来ませんな」

くしゃくしゃと髪を崩すように頭を撫でられて、それでは失礼します、とそのまま姿を見ずに去ろうとする一期の腕を咄嗟に掴む。踵を返す準備をしていて私から手を離したのであろう一期は私に背中を向けていて、私が腕を掴んだことによって一期は足を止めさせられた。

「一期、こっち向いて」
「主の頼みでも、それは出来ません」
「向いて」
「無理です」

絶対に振り向こうとしない一期を見て、少しだけ口角を上げる。だって、一期の耳、赤い。ガラじゃないことを言ったな、とは視界を塞がれているときに思ったし、素直な一期は珍しいとも思った。けれど、成る程そういうことか。

「ふふっ、ありがと一期」
「……お暇をいただきたいんですが、」
「やだ。あ、でも近侍にしてくれってことは期待していいの?」
「どうでしょうな」

照れ隠し、なのだろうか。絶対にこっちを見ようとしない一期に私から近付いて顔を覗き込めば、一期の顔は赤い。多分、私の頬も。見られたのが気に食わなかったのかじろりとこちらを睨む一期に向けて頬を緩めれば、呆れたようにまた私の頭を撫でる。

「明日……日付的には今日か。今日は、いっぱい一期が甘やかしてくれるんでしょ?」
「別に、主がサボらないように見張りを名乗り出ただけですよ」
「ふふふー。いいよ、それでも。傍にいてくれるんでしょー」
「どうでしょうな」

はぁ、と息を吐いて私を引きずるように部屋の外に出ようとする一期は、どうにも照れているのを隠したいらしい。そんな姿も、可愛いとは思うのだけれど。

「明日は万屋付き合ってね?」
「……仕方がないですね」

誕生日ですから、特別ですよ。そう言って結局は付き合ってくれる一期はなんだかんだ優しいのだ。まだ日付が変わったばかりだけれど、どうやら今年の誕生日は期待していいらしい。掴んでいた腕を離して腕を絡ませれば、一度だけちらりと一期がこちらを見たけれど離すつもりはないらしく私は口角を上げながら一期にくっついて部屋を後にした。

2017.07.07