寂しがり、甘やかし
悪いこと、というものは重なるわけで。仕事で大きなミスして怒られ、帰り際に家でやけ酒でもするかとコンビニに立ち寄れば私の知らない女と歩く恋人。私と違って、随分と可愛らしいコだった。
(零のバカ……)
買ってきたお酒を全部空にして、思う。途端、ジワリと私の視界が滲む。あぁ、でも泣くより先に部屋を片付けないと。同棲と言っても名ばかりの同棲で、零がここに帰ってくることは少ない。潜入中とかはどうしても私のことも避けなきゃいけないし、そうじゃなくても職場に寝泊まりしたほうが効率が良かったりするからというのもあるのだと思う。
空き缶を適当にまとめて片付けて、ベッドに転がった。どうせ、今日も帰って来ないだろう。何か知らないけれど女の人と一緒にいたし。零なんか、ホテルでイチャイチャしてればいいんだ。
「一人暮らしに、戻そうかな……」
1人の部屋で、小さく呟く。同棲を始めてからの方が、零に会わなくなったような気がする。家に帰れば会えるから、ということからなのかもしれない。実際は、同じ家の中にいるな、ぐらいの程度なのだけれど。
小さく息を吐いて、布団の中に潜り込む。脆くなった涙腺から涙が溢れ出るけれど、どうせ家の中には私1人だ。そう思いながらそのままにしていると、突然玄関の扉の開く音がした。帰ってきたのか、と思ったけれど、私と零の寝室は別だ。出ていかなければ、会うこともない。
(だからこそ、あんまり顔を合わせなくなったのかな……)
寝室が一緒なら、寝てる姿だけでも見れるからそこまでなかったのだろうか。女々しいことはあまり言いたくないのだけれど、もう少しだけ私を見て欲しいと思うのはワガママだろうか。
その時。ふいに私のいる部屋の扉が開く音がした。その音に、思わず布団をぎゅっと握る。小さく足音がして、私のすぐ近くで零が座るのが分かった。
「名前、」
小さく名前を呼ばれたれど、寝ているフリをする。大丈夫。零には背中を向けているから、私の顔は見えない。
零が、私の頭を撫でる。今までも、こうして私が寝ているときに部屋に入っていたのだろうか。別にそれを咎めるつもりはない。私だって、掃除に零の部屋に入ることがあるのだから。
(あ、やばい、)
零の動く気配がして、多分、私に覆いかぶさっている。そのまま襲ってくるようなことは無いと思うけれど、泣いている顔は見られたくない。
「っ、名前……?」
零が、私の名前を呼びながら顔をのぞき込む。あぁ、バレちゃった、と思うのと同時に零が私の被っていた布団を引きはがすようにして退けた。
「泣いた、のか」
「……悪い?」
「理由を、聞いても?」
「知ら、ないわよっ……。自分の胸に聞いてみたら、」
もう寝るから、と言って再度布団を被ろうとしたけれど、零が私の腕を引いて起き上がらせて、そのまま腕の中へと閉じ込めた。
「何、よ……」
「恋人が泣いてるのに、放っておけるわけがないだろ」
零の言葉に、思わず彼の服を握る。私は、まだ零の隣に居てもいいのだろか。そう思った途端、私の頬を涙が伝う。それに気付いたのか、零が私の背中を軽くたたきはじめた。
「ねぇ……」
「ん?」
「私、零の傍にいていい……?」
「は……?」
心底驚いたらしく、零は何を言っているんだ、というように聞き返す。私が零の身体に頭を押し付けるように俯けば、小さく息を吐いた零に顔を持ち上げられた。そして、そのまま零にキスをされる。
「ん……何、」
「思えば、こうして触れるのも久しぶりだな…」
私に触れる零の顔は、どこか泣きそうで。溢れる涙を、零が拭う。まるで子どもをあやすように零が私の瞼に触れて、キスをする。どうしていいか分からずに零の服を握れば、笑みを浮かべた零が私の額と零の額を合わせた。
「ごめん、」
「何が、よ…」
「名前が寂しがりなの、忘れてた」
「うるさい」
零だって、女の人と一緒にいたくせに。そう小さく言うと、彼は驚いたように私を見た。わりと近くにいたのだけれど、気付いてはいなかったらしい。
「探偵の仕事で会った人だな。信用出来ないか?」
「出来ると思ってる方がおかしいでしょ…」
同棲してるのに顔は合わせないし、職場で顔を合わせたところで何か特別込み入って話すわけじゃない。これなら、同棲する前の方が会っていたし話していたぐらいだ。それで信用出来ると何故思えるのか。
呆れたような声で零が私の名前で呼んで、私にキスをする。そのまま、ゆっくりと押し倒されて私の視界は天井と、零だけ。
「名前は、何をすれば信じる?」
「……痛くは、されたくない」
「じゃあ、優しく、だな」
零が私の頬に触れて、キスをする。随分と久しぶりの感覚にぞくりと背中を震わせながら、朝には全部許しちゃうんだろうな、と思いながら零に腕を伸ばした。
2016.03.23