病弱幼馴染

 
「私、もうすぐ死ぬんだわ」

ベッドに伏せる彼女が、小さく呟いた。少しだけ声が枯れているのは、下がらない熱によるものだろうか。ベッドに腰掛けて彼女の頬に触れれば、体温の低い手が気持ちいのか目を細めた。

「……あまり、そういうことを言うな」
「自分の身体のことぐらい、自分が一番分かってるわ。猛長くない」
「病は気からと言うだろう」
「そんな言葉、聞き飽きたわよ」

少し困ったように笑みを浮かべる彼女の顔を見て、息を吐く。どうも俺は彼女のこの顔に弱いが、彼女が眠るより前にひとつ言いたいことがある。俺は持っていた濡れたタオルを彼女の額に乗せて、ベチリと手の甲で頬を叩く。

「熱風邪で人は死なないから安心しろ」

死ぬかもしれないじゃない。不満そうに頬を膨らませる彼女はついさっき計った体温は38度だった。確かに彼女が発熱してから今日で三日目にはなるが、季節の変わり目の風邪だと大体4、5日目でようやく下がってくるのでまぁいつものことだ。さすがに39度後半にもなれば病院ものだが。

「そもそも私と秀一じゃ身体の作りが違うのよ。秀一最後に風邪ひいたのいつよ。私なんてつい先月も風邪で寝込んだわ」
「少なくとも半年は無縁だな」
「化け物……」
「普通の人間はコレが当たり前だ」

名前が異常なまでに病弱なんだ、と言えば彼女は人恋しいのかベッドに腰掛ける俺の腰に抱き着く。寝ないと治るものも治らないぞ。そう彼女に言っても嫌々と子どものように首を横に振って、怠いであろうに腕の力を強める。

「好きで病弱やってるんじゃないわよ」
「昔から、外で遊びたいが口癖だったな」
「秀一と雪合戦した翌日は肺炎で入院したわ」
「あれはさすがに俺も親に怒られたぞ」
「ふふっ、御愁傷様。でも、面倒見のいい幼馴染がいて助かるわ」
「嫌でも良くなるだろう」

名前の頭を撫でれば、熱はあるものの機嫌はいいらしく楽しげに話す。彼女の身体が弱いのは、昔からだ。子どもの頃から身体が弱く、熱に侵されては外で遊びたいと言っていた。外で遊べぬ彼女の代わりに俺が外であったこと、したことを話して、時に土産のように花やら落ち葉を拾ってきて。小さな子どもの頃は大人になれば体質も変わるなんて話をしていたが、結局はとうの昔に20を超えたというのに未だにベッドと仲良くしているのだ。

「そろそろ本気で無菌室でも作り上げようかしら」
「さすがにやめてくれ。病院の無菌室での面会みたいになるのは御免だ」
「でも秀一に頼りっきりなのもねぇ。死んでた間はあんまり思い出したくないけど」
「アレは悲惨だったな」

沖矢になっていた間は当たり前だが彼女も俺を死んだと思っていて、その間は普段寝込んだ際に来る俺はいない為久しぶりに報告も兼ねて訪れた際は悲惨だった。よくこの女死ななかったな、と思ったのはここだけの話だ。


「寝ないのか」
「寝すぎて眠くないのよ。それとも、添い寝でもしてくれる?」
「昔も、よく一緒に寝てたな」
「どうする?起きたら隣が死体になってたら」
「オイオイ、勘弁してくれ。俺はまだ殺人犯にはなりたくない」

名前のベッドに潜り込んで、腕枕をしてやる。今まで数えられないぐらいこうして共に寝てきたから彼女も慣れていて、甘えるように背に腕を回す。

(このまま、俺無しでは生きられなくなってしまえばいい)

恋人ではなく幼馴染であるはずなのに、その関係には似合わないどろりとした黒い感情。彼女がそれに気付くことがないのは、こうして伏せることが多いからだろうか。

「起きても、隣にいてよ?」
「あぁ。約束しよう」

眠ろうと瞼を閉じる彼女の腰を引いて、頭を撫でる。いっそ、彼女が伏せている間に勝手に書類を作成してしまいたい気持ちに蓋をするように、自分も瞼を閉じた。

2017.06.22