眠る彼の抱き枕
人の脚の上に頭を置いて寝息を立てる恋人の目元を撫でる。元々色素の濃い肌ではあるけれど、それ以上に濃くなっている目の下を見て息を吐く。仮眠も取らずに仕事をするのはいいけれど、いきなりスイッチが切れてこうして人に膝枕を所望するのは如何なものだろうか。一応署内であるだけに、余計に。
(あぁ、でももう10分経つ、)
10分だけ膝貸してくれ。そう言って私の膝枕で寝る彼はきっちりご丁寧に自分のスマホでタイマーをかけて眠りについた。膝枕している私は特にすることもないのが正直な意見なのでスマホを使いつつ朝買ってきたチョコレートを貪っているところだ。彼の仮眠時間であるのと同時に、私の休憩時間である。
さらりと彼の色素の薄い髪に触れて、頬を撫でる。ちくりとするその頬は薄いながらも彼に髭が生え始めているらしい。他の人よりかは薄いし生えるまでは遅いけれど彼も男だ。仕方のないことだろう。
「零、」
スマホのアラームが鳴り響いて、それを止めながら彼の名前を呼ぶ。空色の瞳は、まだどこか眠そうである。
「眠い、」
「仮眠じゃなくて、がっつり寝たら?最近あんまり寝てないでしょ」
「仕事が溜まってるからな、」
「急がば回れって言うでしょ」
くしゃりと髪を掻きあげながら身体を起こす零は少しだるそうだ。たまにこうして倉庫で私が彼に膝枕をして仮眠を取っているけれど、風見に聞いたところ仮眠室は使っていないそうだ。となるとここ数日は私が知っている限りしか仮眠を取ってないのだと思っていいだろう。
「でも、明日はまたポアロでしょ?隈作って接客はアウトだと思うけど」
「あー……仮眠室行くか、」
「最初からそうしてなさいよ。風見が仮眠室使わないって嘆いてたわよ」
「男臭い中寝てられるか」
「ここは埃臭いけどね」
さすがに昔からの知り合いで同期であるとはいえ女に膝枕させる男というのは見られると構図的にやばいという理由で、私が降谷に膝枕をして仮眠を取るときはほとんど人が入って来ない倉庫の奥でだ。ほどよく薄暗くはあるけれどあまり人が入ってこないだけに清掃してあるとはいいつつもどこか埃臭い。
「……こっち、来い」
「何よ……え、待って」
「疲れてるんだ、」
零に腕を引かれて、抱きしめられる。座った体勢のまま抱きしめられた私の身体は零の身体と密着して、身体が触れ合う。触れ合うからこそ分かる、熱を帯びたソレ。疲れているときになることもあるとは聞いたことはあるけれど、実際にそういう場面に遭遇なんてしたことなくて。
彼が疲れていることを知っている以上どうすることもできなくてどうしようかと思っていると零は容赦なく私の肌に触れていく。
「ちょっ……、ここ、倉庫、」
「誰も、来ないだろ」
「そういう問題じゃないでしょ。見られたら一発アウトだと思うわよ」
「鍵は閉めてるだろ」
「そうは言ってもねぇ……」
中から閉めているだけだからそれを開ける鍵というものが存在するんですけど。風見は零が署内にいることは知っているだろうし、あまりにも見つからないとなればまぁ探すことだってあるだろう。こんなところで仮眠を取るとは思ってないだろうけれど、引き籠って資料を漁っていると考える可能性は十分にある。
「寝かせてくれ……」
「半分寝てるじゃん」
人の事をぬいぐるみのように抱きかかえる恋人に呆れて息を吐く。規則正しい寝息が聞こえてきた辺り、寝落ちしたのだろう。さて何分で彼は起きるかな、とスマホで時間を確認した私はつくづく恋人に甘いと思う。
2017.12.22