彼女の裏側
*安室さん視点
彼女を見たとき、とても綺麗な人だと思った。中世的な顔で、細見。何か、そういう職業でもしているのかと思うぐらいに。
「ご注文はお決まりですか?」
「あ、はい!ケーキセットお願いします」
「かしこまりました」
「あ、あとすみませんっ…」
「はい?」
「がっつり食べたいんで、大き目のフォークとか、お願いできますか…?」
「…わかりました。大き目のフォークですね」
恥ずかしそうにしながら、少しだけ申し訳なさそうに言う彼女。それが、無性に可愛く思えた。それが、一番最初に彼女が僕が働く店に来た時のこと。
それから何度か彼女が訪れて、来たときには他愛もない話をしたりすることもあった。勿論、あくまで店員とお客としてのことだ。正直僕にもただ綺麗な人だ、と思っただけで別にそれ以上を望むわけでもなかった。言うならば、コロコロ表情が変わるその姿が見ていて面白い、ぐらいの。ただ、それだけの感情。だった、筈なのだ。
「お姉さん、今暇してる?」
「い、いえ……」
「ちょーっと話すだけでいいからさ、ね?」
街中で見かけた、その女性。先に気付いたのは僕の方で、彼女はなんというか男の人2人に変な絡まれ方をしていた。確かにあの顔つきなら声をかけられても不思議ではないだろう。
(多分、彼女も断り慣れてるだろうしな……)
あくまで、僕の推測だけれども。だから大丈夫だろう、と思いつつ彼女を見ていたら、意外にも慣れていないのかその男に腕を掴まれて路地へと引きずられるように連れ込まれていく。辺りに人はいなくて、見ているのは恐らく僕一人。
さすがにそれは駄目なんじゃないか。そう思って、後に続くように路地に入ったとき。
「絡むんなら、女1人抑え込めるようになってから絡んで来いよお坊ちゃん?」
そこには、冷たい笑みを浮かべて1人の男の胸ぐらをつかんでいる彼女がいた。
胸ぐらを掴まれていない方の男が彼女を抑え込もうと近付くも、彼女は掴んでいる方の男を勢いよく放り投げてその反動のまま足を振り上げた。それは見事に当たり、最初に放り投げた方がまた掴みかかってきたのを軽く避け、身長が自分の方が低いことを利用して下から男の顎を勢いよく殴った。
(ボクシング…いや、違う……)
そんな、型にはまったような動きじゃない。避けて、その反動を利用して攻撃する。それは、場数を踏んだことによる経験の動き。習ったものではない、完全独学のもの。
スカートが捲りあがることも、髪が乱れることも気にせずに、彼女は1人で2人の男を伸していく。数分もすれば男たちは立ち上がることもなくなり、どうやら気絶しているらしい。
「ったく……絡むんならもうちょっとマシな絡み方して来いっての…」
腰に手を当てて気絶した男を足で扱いながら呟く彼女の姿は男前で。どちらかと言えば、こっちの方が素なのだろう。普段とのギャップに、思わず肩を震わせる。
「救急車、は…いっか。勝手に病院でも行くだろ」
床に落ちたままになっていた鞄を拾って、路地から大通りに戻ろうと彼女が僕のいる方に身体を向ける。その瞬間、彼女はビクリと驚いたように肩を跳ねあがらせて僕を見た。
彼女のギャップについ笑みを浮かべる僕とは対照的に、彼女は顔を引き攣らせた。
掲載期間:2015.9.24〜2016.01.31