行きも良くなければ帰りも怖い

 
学校を、早退した。朝はちょっと身体が怠いかな、ぐらいだったのだけれど、午後に向かうにつれて本格的にちょっと無理だな、と思ったからだ。ただ私に昼間に学校まで迎えに来てもらえるような人はいなくて、帰るとしても結局は自分で歩くしかない。

(あ、これはちょっとまずい……)

グラグラと、視界が歪む。揺れる視界の中でなんとか道路の隅に移動して、しゃがみ込む。少しだけここで休憩をして、視界が落ち着いたらまた家に戻ればいいだろうか。ガンガンと痛む頭を抑えながら、息を吐いた。

 + + +

「あ、起きました?」

目を開けて真っ先に視界に入ったのは、色素の薄い髪。振り返って私を見たその人に、つい私の眉間にシワが寄せられた。

「別に、何もしませんよ。道路で倒れてたんで運んだだけです」
「…倒れて?」
「はい。道路の隅で」

私、あのまま倒れたのか。息を吐いて天井を見上げたら、随分と見慣れない天井。キョロキョロと辺りを見回しても、見慣れない景色だ。そもそも、安室さんは私の家を知らない筈で。

「あ、の…ここって…?」
「僕の家ですけど。名前さんの家、知りませんしね」
「すみません……」

手で視界を隠しながら謝罪をすれば、どうやら額には冷えぴたのようなものが貼られている。熱も、あったのだろう。
眠ったせいか頭の痛みもなくて、ゆっくりと身体を起こす。一人で暮らしているのだろうか。ワンルームのその部屋は、綺麗に片づけられている。

「軽いものなら食べられますか?」
「や…。うん、帰ります」
「倒れてたような人をはいそうですか、なんて言って帰せるわけないでしょう。なんなら、赤井でも呼びます?」
「多分仕事中かと」
「名前さんの携帯、少なくとも5回は震えてますけど」
「うわぁ……」

辺りを見回して、近くに置かれていた鞄を見つける。布団から出て鞄を開いて携帯を取り出せば、画面には秀一さんからの着信履歴が並んでいる。時間は、19時を過ぎていた。

「すみません、私結構寝てたんですね…」
「倒れていたぐらいですから、仕方無いですよ。体調は、大丈夫ですか?」
「大丈夫そう、です。頭も痛くないですし…」
「なら良かったです。あぁ、解熱剤飲んでるから熱が下がってるだけかもしれないので、まだ油断したら駄目ですよ」
「あ、有難う御座います」

1人暮らしの男の家に解熱剤が置いてあることにも驚きだけれど、まぁ組織に潜入しているのだからそのぐらい持っていても不思議じゃないのかもしれない。正直、毒薬とかも何気に持っていそうで怖いけれど。
ふいに、手に持っていた携帯が震え始めた。それは秀一さんからで、通話にしようかどうか迷っていると横から手が出てきて安室さんがそれを取った。そして、それを通話に切り替えた。

「え、安室さ、んんっ、」

安室さんが携帯を持っていない方の手で、おもむろに私の口を塞ぐ。秀一さんが何を言っているかは分からないけれど、安室さんの雰囲気を見ただけで平穏な会話でないことだけは分かる。というか、私は家に帰らないといけないのだから変に安室さんと一緒にいたということが知られるのは正直ツラい。

「はい、終わりましたよ」
「終わりましたって…容赦なく奪ったんじゃないですか…」
「家まで送ります。車まで歩けますか?」
「や…うん。歩いて帰りますよ」
「一応、赤井の許可は取りましたけど」
「そういう問題じゃないんだよっ……」

今から家に帰らなければならないのだけれど、正直なところ帰りたくはない。秀一さんが、怖い。私が立つのに手を貸そうと安室さんが手を差し出しているけれど、私は奴当たるようにその手を叩いた。

2016.03.29