白くて大きな鳥
(…あ、日付変わってる)
布団でゴロゴロしながら本を読んでいたら、いつの間にか日付が変わっていた。明日も休みだから少しぐらい遅く起きても問題は無いけれど、極力規則正しい生活をしていたいと思うのも確かだった。そろそろ寝ようか、と部屋の電気を消した瞬間。バサリ、と外から何かが大きく羽ばたくような音がした。
「……誰?」
街中の光の中に映る影。人の姿であるそれは、ベランダに立っていた。真っ白な翼を畳んで、口角を上げて。いくつか、彼の方が年上だろうか。
「お嬢さん。少しの間、匿っていただいてもよろしいですか?」
「私、もう寝ちゃうわよ?」
「それはそれは…。レディがお休みになられているところを邪魔しては、怒られてしまいますね」
私に背を向けて翼を広げようとしたその大きな鳥を、私は思わず掴んだ。その鳥は一瞬だけ驚いたように見えたけれど、すぐにまたさっきのような余裕のある表情に戻る。
「私が寝るまでなら、いてもいいよ」
「では、お言葉に甘えて」
私の手を取って、白い鳥が私の指先に口付ける。私が彼の手を取って部屋の中に招き入れれれば、私の座った隣に座る。
「お嬢さんは、眠る時間では?」
「寝るまで、お話しようよ」
私がぽすり、と布団に転がれば、彼は私の頭を軽く撫でる。けれど、その手にしてある手袋は決して外さない。
「手袋、外さないの?」
「私がここにいた、という痕跡がどこかに残るといけませんので」
「貴方は、悪い人なの?」
「…それは、ご想像にお任せしますよ」
匿ってほしい、ということと痕跡が残るといけない、ということを合わせたら悪い人なのかもしれない。けれど、なぜか彼はあまり悪い人には見えなくて。規則正しく撫でられる感覚に、私は瞼を落とした。
+ + +
目を覚ますと、彼はもういなかった。…と、言いたいところだけれど、彼はいて。多分、私が彼の服を掴んでいたから帰るに帰れなかったのだと思う。どうやら彼も規則正しく呼吸を繰り返して眠っているようで、服を掴んでいた手を放して頬に触れる。
(綺麗な顔……)
端正な顔つきは、まだどこか幼くて。私よりかは年上だろうけれど、成人はしていないのだろうか。
「男は、狼ですよ。お嬢さん」
「きゃっ…!」
フッ、と口角を上げて、目の前の彼が言った。まさかいきなり喋るだなんて思っていなかった私は悲鳴を上げて触れていた手をパッと離す。
「昨夜は、ぐっすりとお休みになられていたようで」
「ごめんなさい…。貴方の服、掴んだままだったから帰れなかったのでしょう」
「寝顔は、堪能させていただきましたよ」
彼が立ち上がって、私の頭を撫でる。外からふわりと風が入ってきて、ガラス戸が開けっ放しだったことに気付いた。彼が、風邪をひいてなければいいのだけれど。
帰るために入ってきたところから外へと出る彼に、私は声をかけた。
「ねぇ、また会える?」
「貴方が望むのなら、」
「じゃあ、追われたらまた来てね?」
ここの扉、いつでも開けておくわ。私がそう言えば、彼はフッ、と口角を上げて私の頬をなぞるように触れた。
「決して、私以外の男を入れてはいけませんよ」
そう言うと、白い大きな鳥は翼を広げて空へと飛んで行った。
2016.03.07