面影
寒い冬が過ぎて、暖かくなってきた。嬉しいことに私には花粉症というものがなく、布団を干すなら今日だと思って外に干そうとした。そこまでは、よかったのだけれども。
「ホントにごめんね?大丈夫?怪我とかない?」
「だ、大丈夫だよ!ちょっと視界が真っ暗になったけど…」
布団を干す、というのは思っているよりも重労働で。結構重さのあるソレを干すのに勢いよく持ち上げて干そうとしたのが間違いだった。勢い良くベランダの柵に乗せた結果、布団が落ちた。そして落ちた布団をどうしようかと思って下を覗いた瞬間に聞こえた子どもの悲鳴。その瞬間、一気に血の気が引いた。急いで下に降りれば幸いにも子どもは無事だったようで、落ちてきた布団と上を何度も見比べていた。
「あと眼鏡…!あ、良かった、壊れてはなさそう…」
「あ、ありがとう……お姉さん?」
少年の眼鏡を拾って確認し、壊れていないことにほっと息を吐く。怪我も無いみたいだし大丈夫だろうか、とその少年に眼鏡を手渡そうとして、止まる。
(なんか、見覚えがある………?)
どこだろう。遠い昔、どこかでこの少年と同じような顔を見たことがあるような気がする。どこでだっただろうか。最近でないことは、確かなのだけれど。
まじまじと少年を見ていると、その姿が同級生に重なる。
「工藤、君?」
「へ?」
「え……あ、ごめん!わからないよね?お姉さんの同級生に似てたからつい…」
似てる、というよりかは瓜二つなのだけれどこの少年からすれば誰のことかわからないだろう。最近は減ったけれど前はときどき新聞に載っていた。でも、小学生が新聞を見るとは思えない。と、なるとこの眼の前の少年からすれば工藤君なんて誰のことかさっぱりだろう。そう、思っていたのに。
「もしかして、新一兄ちゃんのこと?」
なぜ知っているのだろうか。今時の小学生はキッチリ新聞も読むの?私が子どものころは読んでも番組欄ぐらいのものだったのだけれど。
首を傾げて尋ねる姿が可愛くていっそ抱きしめてみたい衝動に駆られたけれどなんとかこらえて、知ってる?と聞けば会ったことあるよ、と元気に答えてくれた。
「君、工藤君にすっごく似てるね」
「えへへ、よく言われるんだ」
「うん、見れば見るほど似てる…。懐かしいなぁ」
工藤君は今もなのかもしれないけれど小学生の頃はすごく頭が良くて、何でも出来て。憧れなのか、初恋なのか。よく分からないけれど、気になる人であったのは確かだ。
「お姉さん、新一兄ちゃんの友達?」
「うーん…元クラスメイト、かなぁ。というかあんまり話したこともなかったし覚えられてるかどうか…」
「覚えてると、思うけど…」
少しだけしょんぼりとした少年に、眼鏡を返す。うーん、工藤君に子どもが出来たらこんな感じになるのだろうか。可愛い。
少年に眼鏡を返せば、受け取ってそれをかける。眼鏡をかけると思ったより似ていないらしい。目つきとかも、ありそうだけれど。
「お姉ちゃんは、新一兄ちゃんのこと好きなの?」
「好き……うーん、どうだろう。小学校卒業した後は会ってないしねぇ…。会えば分からないけど」
「ふーん…。じゃあ、新一兄ちゃんに伝えとくね!」
「えっ…え、少年!?」
天使のような悪魔にも見える笑みを浮かべて、じゃあ僕行くねー!なんて言いながら去っていく。少年は工藤君と連絡を取り合っているということなのだろうか。
(まぁ、いっか)
子どもが言ったぐらいでわざわざ人のアドレス聞いたりはしないだろう。それに最近は事件が忙しくてあまり学校にも来てないって聞いた。私に連絡取るぐらいなら毛利さんに取るはず。そんなことを思いながら、落ちた布団を抱え上げた。
数日後、工藤君からのメールに頭を抱えることになるのは別の話。
2016.04.25