熱に侵されていく
「コレはちょっとやばい……」
電子音の鳴った体温計を見て、呟く。表示された体温は40度ギリギリ手前で、薬を呑んだ方がいいぐらいの体温だ。
(身体だるいなぁ…)
ぼんやりとする頭で、廊下に出る。残念なことに私が常備している薬に解熱剤は無い。組織の中にいる人間で、薬を持っていそうでかつ今この建物内にいる人を考える。
「何フラフラしながら歩いてんだ」
「んー……?」
突然後ろから声をかけられて振り向く。長い銀髪を揺らしながら歩くその男は私の顔を見るなり眉間にシワを寄せた。
「熱があるのか」
「40℃まではないからいける」
「……ウォッカ、」
「へい」
はぁ、とジンが息を吐く。ジンの後ろにいたウォッカが私の前まで来て、額に手を当てると眉間にシワを寄せてそのまま腕を掴んで私のことを抱き上げた。赤ちゃんみたいに抱かれた私はウォッカ越しにジンと視線が合う。
「適当に布団に放り込んで寝かせとけ」
「了解」
「えー…まだいけるって…」
「テメェは寝てろ」
ジンの人でも殺せそうな睨みに、小さく息を吐く。まぁ、ジンはいつもウォッカを連れまわしてるから今だけは私が独占させてもらおう。というか、一応恋人なのだからそれぐらいいいだろう。うん。
踵を返して銀髪を揺らしながら歩くジンを見送りながら、ウォッカに抱き着く。姫抱きの方が良かったかな、と考えたけれど、想像すると似合わないからこっちの方がよかったのかもしれない。
「体温は計ったのか?」
「39度9分」
「むしろ何で出てきた」
「痛い痛い痛い痛い!!」
片腕で私を抱えているウォッカは、空いている方の手で容赦なく私の太ももをつまんだ。やめろ、脂肪がバレる。
40度まではないからいけるかなって思った、と素直に言えば呆れたように息を吐いた。そのまま無言で私を部屋まで運んで、問答無用と言わんばかりに布団の上に転がす。
「薬…はあるわけねぇな、」
「よくお分かりで」
「持って来るから寝てろ」
返事を聞くまでも無く、ウォッカが部屋から出ていく。ジンがいるときとは違う口調に、彼がイライラしているのが分かる。原因が私なのはもう分かりきっているのだけれど。
(寝たら薬飲めないじゃん……)
瞼を閉じて寝てしまおうかと思ったけれど、寝たら薬が飲めない。布団に潜ってどうしようかと思いながら待っていると、暫くして荒々しく扉が開く。どうやらウォッカが戻って来たらしい。
「何か食ったか?」
「軽くだけど」
「じゃあ飲め」
「はーい」
私が身体を起こすと、水と薬を手渡される。大人しくそれを口に含んで流し込めば、子どもが同じことをしたようにウォッカが頭を撫でる。
「ねぇ、ちゅーしてもいい?」
「は?」
「風邪ひいたときは人にうつせって言うでしょ」
「っ、あー……」
ガシガシと頭をかきながら、声を漏らす。何やら葛藤しているようだけれど、正直私には関係の無いことだ。私は飲みかけの水を置いて、ウォッカに手を伸ばす。
そのまま、軽く触れるだけのキスをした。
「私が起きるまで、この部屋にいてね?」
「……おう」
耳を赤くして照れたように私から視線を逸らすウォッカを見て口角を上げる。彼が私の手を取って、それを握り返しながら私はベッドに横になった。
2016.04.04