川の字
「子どもの名前、今日はやけにパパにべったりね?」
「パパいつもいないもん」
「確かにな……」
秀一さんの膝の上に座って子どもの名前に尋ねれば、少しだけ拗ねたように子どもの名前が言った。仕事上数日家にいなかったりするのは仕方ないのだろうけれど、子どもから見ればやっぱり寂しいのだろうか。
「でも子どもの名前、そろそろ寝る時間よ?」
「えー…もっとパパといたい」
「あら、モテモテね?」
「それは、名前も一緒にいたいってことでいいんだな?」
「わかってるくせに」
子どもの前でもサラッとそういうことを言う秀一さんは、実際教育には如何なものか。子どもがもう少し大きくなったときに考えた方がいいかもしれない。
秀一さんに抱きついてイヤイヤと首を横に振る子どもの名前の頭を、秀一さんが撫でる。
「じゃあ、パパと寝たい」
「パパとか?」
「ママも!三人で!」
秀一さんの膝の上から子どもの名前が私を指差す。私と秀一さんは顔を見合わせて笑って、じゃあ今日はみんなで川の字で寝ようか、と言うと子どもの名前は顔を輝かせた。
+ + +
「なんか学生時代の合宿みたい」
「何年前の話だそれは」
「少なくとも秀一さんよりは近いかと」
一応、2回も高校生活をしたのだからそれなりに覚えてはいる。
子どもの名前は布団に入って横になるとすぐに眠くなるようで、まだ布団に入ってそんなに経っていないのにリビングにいたときと比べると眠そうだ。
「子どもの名前、寝付きいいよね」
「名前も似たようなものだろう」
「秀一さんいないとあんまりよくないよ」
子どもの名前のお腹を優しくトントンと叩きながら話す。眠いけどあまり眠りたくないのか、子どもの名前はぎゅっと秀一さんへとしがみつく。
「名前、」
秀一さんが私の名前を呼んで、トントンと布団を叩く。子どもの名前を挟んで傍によれば、満足したのか口角を上げて私の頭をくしゃりと撫でた。そのとき、子どもの名前は何かを思い出したように小さく声を漏らした。
「どうしたの?」
「パパとママの、昔のお話聞きたい」
「え、昔の?」
「ん!哀ちゃんが、パパとママ、昔から仲良かったって」
何を言ってくれてるんだあの人は、と言いたくなったけれど夜なので堪える。秀一さんも昔の話か、と悩むように考えている。そりゃあ監視対象かつ保護対象だった未成年を自分の前からいなくなるようにかつ安全なところへ避難させようとしたけど言うことを聞かず、なんやかんやで手出して今に至るとか言えるわけがなくて。
「会ったのは、いつ?」
「えーっと、ママが15歳のときかな。パパがママの学生証を拾ってくれたの」
「目の前で落としていったからな…」
「パパが拾わなかったら、会ってなかった?」
「どうだろう…。そのとき会ってなくても、いつかは会ってたのかな、」
組織のことや事件のことを通して、会っていた可能性は少しはあるのではないだろうか。秀一さんが、わりと行動範囲が近かったからな、とフォローするように子どもの名前に言った。子どもの名前を挟んで秀一さんに抱きつけば、フッ、と彼が口角を上げる。
「ママ、パパのこと好き?」
「好きよー。大好き。子どもの名前も、パパのこと好き?」
「うん!パパは、ママ好き?」
「あぁ」
ほら、早く寝ないと朝起きれなくなるぞ。秀一さんがそう言って、子どもの名前の頭を撫でる。えへへ、と笑う子どもの名前は嬉しそうに瞼を閉じる。眠りに落ちてしまうのも、時間の問題だろうか。
「名前」
「うん?っ、ん」
秀一さんの唇が、私の唇に触れる。一拍置いてソレはゆっくりと離れて、視線が交わる。秀一さんは、口角を上げて、おやすみ、と小さく呟いて瞼を閉じた。
(ずるい人、)
何年経っても、私は秀一さんにベタ惚れで。一枚上手の彼には、まだまだ敵いそうにない。
2016.05.19