彼女の裏側02
*安室さん視点
「えっ…と……」
彼女がちらり、と僕を見上げる。そして、後ろで倒れている男2人を見て、また、僕を見て。
「どこから、見てました……?」
さっきまでの威勢はどこに行ったのだろうか。連れてこられた猫かのように、彼女はやけにしおらしく僕に尋ねる。
「まぁ、路地に連れ込まれるところから、ですかね」
「…ですよね」
ハハ、と彼女が乾いた笑いをした。もう全て見てしまった以上、隠すつもりはないのだろうか。やっちまったなぁ、なんていつもの彼女からは想像がつかない口調。ギャップ、とでも言うのだろうか。顔からは想像が出来ないソレにまた笑みを浮かべる。
「このこと、誰にも言わないでもらってもいいですか?」
「えぇ、構いませんよ。ただ、何か理由でも?」
「言葉遣いとかにうるさい幼馴染がいるんですよ。あー…さすがにポアロの人にバレるとは思わなかったな…」
絡んできた男とやりあったときに無造作に置かれた鞄を拾いながら、彼女が言う。中身が無事であることを彼女が確認をしていると、男のうちの1人が意識を取り戻したのか起き上がる。鞄を確認していた彼女はすぐにソレに気付いて、勢い良く起き上がってその反動のまま足を蹴りあげた。
「あっぶなー…顔に怪我したら怒られるの俺なんだっつーの」
「……随分と、反射神経もいいんですね」
「まぁ、訳ありでね…」
苦笑いをする彼女が、小さく息を吐く。僕が誰かに言いふらすようなことをしそうにないと思って、安心したのだろうか。
起きる前に大通りに戻りましょうか、とまた猫を被る彼女。そうですね、と返事をして長い髪を揺らして前方を歩く彼女を見る。その見た目からは全く想像がつかないあの荒々しい言葉づかいは、どこから来たものだのだろうか。
(学生の頃、やんちゃしてたとかか…?)
恐らく彼女のあの動きは、喧嘩慣れしている。大人しくしていれば喧嘩をすることも無さそうだが、正義感からしたのだろうか。ただ、それにしては喧嘩の仕方も随分と荒い。女同士の喧嘩だとしても、あそこまでの荒々しさはないだろう。ならば、男とも日常的に喧嘩をしていたということだろうか。それにしても。
「……顔を、怪我したら駄目なんですか?」
大通りに出たとき、彼女に尋ねる。彼女は少し考えるような素振りをして、可愛らしく笑みを浮かべた。もう、猫を取るつもりはないらしい。
「幼馴染が、うるさいんですよ。女の子なんだからって」
「幼馴染、ですか」
「はい。男なんですけどね、その人の前で素でいたら相当怒られるんです」
見た目は悪くないんだからちゃんとしてって。そう言って、少しだけ困ったように笑う。男の、幼馴染。その言葉に少しだけモヤモヤするものを抱えながら、その感情に蓋をするように僕は大変ですね、と言って続けるように彼女の名前を尋ねた。
掲載期間:2016.01.31〜2016.03.04