幸せに触れる

 
「諸星君、髪サラッサラだね。羨ましい」
「そうか?」

これだけ長いと邪魔にならない?と尋ねれば、あまり気にしたことはないと返される。男の人でここまで伸ばすなら、何年ぐらいかかるのだろうか。試しに三つ編みにしてみても、髪ゴムでまとめなければサラリと流れていく。

「名前、何やってるのよ」
「許可は得ました」
「別に減るものでもない」

胡座で座る諸星君の後ろに座って、私が彼の髪を触っているとマグカップを3つ置いてあるトレイを持ってきた明美が声をかけた。諸星さんと会うのは今回が初めてではなくて、もう何度も会ったことがある。3人で会うこともあるし、お互いがお互いのことを私に相談したりすることもあるから2人だけで会うこともある。

「私も髪伸ばそうかなー」
「伸ばしたことはないのか」
「大学入ったころは長かったんだけどね」
「そういえばそうよね…。なんで切ったの?」
「5年付き合ってた彼氏にフラれたからかなぁ」

気分転換したかったんだよね。そういうと、マグカップをテーブルに置こうとしていた明美の動きが止まった。別れてから結構経つし、引きずっているなんてことはないのだけれど明美は申し訳無さそうに私を見ながら小さく謝罪を述べた。

「もう未練ないから大丈夫だよ。しばらく恋人はいいかなーって気はするけどね」
「勿体無いことをしたな、その男も」
「そう?じゃあ諸星君が明美にフラれたら私のこともらってよ」
「ちょっと名前!」
「あはは冗談冗談」

諸星君も分かりにくいけど明美のことが好きなのはよく分かってる。明美も勿論諸星君が好きで。あまりこの二人が別れるとは思えないけど、仮に別れたとしても私が諸星君と付き合うか、と言われたらさすがに考える。本当に彼が私のことを好きになって別れたのだとしても、すぐに付き合えるかと言われたら答えはノーだ。
諸星君の後ろを離れてテーブルに置かれていたマグカップを手にとって、幸せそうに笑う二人を見て私は笑みを浮かべた。

 + + +

部屋の明かりを間接照明だけにして薄暗くなった部屋で、三人で布団を敷いて並ぶ。明美を真ん中にして左右に私と諸星君が並ぶこの並び方も三人で寝るときの決まった配置だった。

「明美、眠い?」
「ちょっと…」
「じゃあ寝れそうなときに寝ていいよ」
「んー……」

もしかしたら、明美はもう半分ぐらい意識は夢の中だったのかもしれない。すぐに明美からは規則正しい寝息が聞こえてきて、その寝顔を見て頬を緩める。

「お前は、寝ないのか」
「眠くなくって。どうせなら諸星君の寝顔でも写真撮ってから寝ようかな」
「盗撮は犯罪だが?」
「見るぐらいなら許してくれる?」
「さぁな」

フッ、と口角を上げて笑う彼を見て、一瞬彼にも表情筋は合ったのか、ということを再認識する。ちょっとだけ人相は悪いけれど、明美は本当に良い人を捕まえたと思う。

「結婚式には呼んでね?」
「話が飛躍しすぎだろう」
「えー…。明美、絶対似合うと思うんだけどなぁ…」

何より苦労してるみたいだし、幸せになってもらいたいから。そう言いながら明美の頭を撫でれば、明美の頬が緩む。詳しいことは知らないけれど、彼女が人よりも苦労していることは知ってる。彼になら、明美は幸せにしてもらえる。

そのとき、私の頭は何故か諸星君に撫でられていた。

「え?何?」
「お前も幸せにならないと、コイツも嫌がるぞ」
「遠回しに相手見つけろってことね…」
「急いで見つけようとして、変なのを捕まえるなよ」
「そうねぇ…」

諸星君みたいな人がいればいいのだけれど、それは難しいだろうか。でも、私の相手は明美が落ち着いてからでいい。そろそろ私達も眠ろうか。お互いにそう言って、私たちは眠りに落ちた。

2016.05.22