天秤にかける
教室の入口で、見慣れたポニーテールを見つけて頬を緩める。目的の人物の隣に少しだけ気に食わない男がいるけれど、それはこの際無視だ。隣のクラスではあるけれど、私は堂々と中に入って後ろから思いっきり彼女に抱きつく。
「和葉!」
「きゃっ…!あ、なんや名前か!もう終わったん?」
「終わったよー!和葉ももう帰れる?」
「おい待てコラ」
私が和葉に後ろから抱きついたまま話していると、口を挟んできた色黒男。今は私が和葉と話しているのだから邪魔しないでほしいものだ。
何よ、とワントーン低い声で尋ねれば、彼も大層不機嫌そうだ。
「お前和葉と方向逆やろ」
「残念でしたー!今日は和葉の親御さんいないからうちにお泊りですー」
「はぁ!?」
「いいじゃん別に。色黒男のとこに泊まらせるより安心だし」
私の可愛い可愛い和葉が将来この色黒男に捕まるかもしれないと思ったら今のうちぐらい邪魔しても許されると思う。まぁ、捕まっても邪魔する気は満々なのだけれど。
お泊り、というのが気に喰わないのか、彼は和葉にホンマかそれ、と尋ねるけれど残念本当のことだ。和葉も嘘言ってどうするん、と呆れたように言った。
「やめとけやめとけ!和葉お前いつかこの女に食われるぞ」
「アンタには言われたくない」
「なんやと?」
和葉はこの色黒男が好きで、この男も気付いてはいないけど和葉が好きなのだろう。男というだけで私の知らない和葉を見られるのだからずるいものだ。このまま話してても埒が明かないだろうし、時間の無駄だし帰ろう、と和葉の肩を掴んで教室の入口の方へと向けながら言う。
私とこの男の言い合いにも和葉な慣れているようで、呆れたように息を吐きながら歩き始める。
私は最後に色黒男に向けてべっ、と舌を出してみせた。
+ + +
私がベッドでごろごろと転がっていると、和葉が部屋に入ってきた。お風呂から上がってきたらしい。
「あれ、名前もう寝るん?」
「いや?転がってただけ」
「そうなんや。にしても、昼間思ったんやけどホンマ名前と平次仲悪いなぁ」
仲良くしても私に得は無いしね、と和葉に向けていうと彼女は私の隣に腰を下ろしながら笑う。別にあの男が嫌いなわけじゃない。和葉とイチャイチャするのが気に食わないだけだ。
「でも和葉はその色黒男が好きなんでしょー?」
「好きって…そんなんちゃうし!」
「じゃあ服部君に彼女が出来ても素直に応援出来る?」
「うっ………」
やっぱりね、とは言わずに心の中で思う。うーん、和葉の気持ちは知ってるけど服部君はどうなんだろう。応援は、あまりしたくないのだけれど。和葉に一緒の布団でいいよね?と確認を取れば、気にせんよ、と言いながら私の隣に転がる。
「にしても、問題は服部君よね」
「へ、平次とは別に…好き、やけど」
「えー。くっつくならくっついてくれた方が私も楽なんだけどな」
告白しないの?と彼女に尋ねれば、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてブンブンと首を横に振る。和葉に告白するつもりが無いのなら、させるなら服部君だろうか。
「平次のことは好き、やけど…。関係壊すんも怖いし…」
「じゃあ服部君に告白させるか」
「させるかって…!平次がどう思っとるか知らんし…!」
「あの色黒男に和葉を託すのは癪だけど…うん、でも他の人よりかはマシかな」
ポッと出てきた男なんかに、可愛い可愛い和葉を渡したくはない。幼なじみだし、なるようになるよ。そう言って私が笑うと、和葉も少しだけ恥ずかしそうに笑う。
問題はあの男が自分の気持ちに気付くことなのだけれど、果たしてそれはいつになるのだろうか。誰か、その辺りを突っついてくれる男の子が平次の近くにいればいいのだけれど。
(まぁ、時間かければいけるかな……)
私と服部君はいろいろと言い合ったりするけれど決して仲が悪いわけじゃない。ちょっかいを出しつつさり気なく気づかせればいけるだろうか。託したくは無いけど、ソレ以上に他の男はもっと嫌だ。でも、それで和葉が笑ってくれるならそれでいいかもしれない。
顔を赤くしてあーでもないこーでもないとつぶやく彼女を見て、私は笑みを浮かべた。
2016.05.27