黒に滲む

 
「あら、随分と様になってるじゃない?」
「うるさいよ。何か用かい?ベルモット」

廊下を歩いていたキャンティに声をかければ、鬱陶しそうに返事をされる。彼女が抱えているその子どもは、私の顔をキャンティの顔を見比べて、彼女に抱きつく。最初はどうなるかと思っていたけれど、思っていたよりも心配はしなくて大丈夫そうだ。

「別に用は無いわ。まぁ、貴方にもソレはいい経験になるんじゃないかしら」

ただの子育てとは違うけれど。小さくそう言いながら、彼女の横を通り過ぎる。一応他の人が預かることもあるが、あの子どもはやけにキャンティに懐いている。そのままいい方向に育てばいいけれど。そう思いながら、脚を進めた。

 + + +

「お母さん、どうしたの?」
「私は、アンタのお母さんじゃないんだけどねぇ」
「でも、お母さんみたいだもん」

ぎゅっと抱きついて甘えてくるこの子どもに、無意識に頬を緩める。最初に見た時からやけに私に懐いてきたこの子どもは、基本的には私が面倒を見ている。もしも私がこういうところにいないで普通の人間だったのなら、子どもがいてもおかしくはなかったのだろうかと考えたことはある。

「僕も、お母さんみたいに銃使えるようになる?」
「練習次第じゃないかい?といっても、まだ本物を扱うのはダメだろうけどね」
「小学生になったら使える?」
「さぁねぇ…。ジンに聞いてみな」
「あの人怖い…」

名前の言葉に、思わず笑う。確かにジンのあの顔は子どもから見れば怖いだろうか。そして、アイツは子どもにも容赦がない。
少し不満気に腕の中で唇を尖らせるその姿に、無意識に口角を上げる。この子どもがその小さな手を血で染めるのは、そう遠くはない未来だろうか。子どもだからこそ、使える技がある。

「明日は、お母さんの狙撃見れる?」
「外ではダメだけど、中の練習場でならね。手入れもするかい?」
「する!」

絶対だよ!と言って笑う名前の頭を撫でる。そろそろ寝る時間だというのに、少し興奮させただろうか。疑うことを知らない子どもに刷り込むのは最初こそ躊躇するものがあったが、この子どもそのものになかなかの素質がある気がしてきていた。時折見せる子どもらしからぬ冷たい視線は、どこで覚えたのか。

「今日は、お母さんも一緒に寝る?」
「残念だけど、今日はこれから仕事だよ」
「ちぇっ…」

部屋に入って、名前をその場に下ろす。なれた手つきで自分の布団の用意を始めるその姿は、少しだけ危なっかしいくも感じる。小さく息を吐いて布団を用意してやれば、嬉しそうに笑った。こうしていれば、普通の子どもだというのに。

「ほら、寝るよ。明日はちゃんと手入れ教えてやるから」
「はーい」

布団に入り込んだ名前のお腹を軽く叩いてやれば、あっという間にうつらうつらとしてくる。完全に寝るまでは、あと少しだろうか。名前が寝ればあとは私は次の目的地に行くだけだ。まだその時間までには多少ある。

「お母さん…」
「何だい?」
「大好き、」
「…バカなこと言ってないで、早く寝な」
「んー…」

もう既に、半分寝ていたのだろうか。私が息を吐いて名前を見れば、もう夢のなかだった。軽く頭を撫でてやれば、名前の頬が緩む。果たしてこの子どもは、いつまで耐えられて、純粋なままでいられるのか。

(ずっと、いてくれたらいいけどねぇ……)

そんなことを思ってしまう自分は、もうこの子どもに毒されているのかもしれない。

2016.05.30