イタズラ

 
「やっと開放された……」
「大変だな、オメーも」

工藤君の部屋に入るなりもうやだ一歩も動きたくない、と言って床に倒れる。手を伸ばして工藤君が読んでいたと思われる小説を手にとって開く。うん、推理モノだ。

「つーか寝るんならここじゃなくて客間行けよ」
「女の子の扱いに慣れてそうなのに意外にピュアな新一君をからかって遊ぶつもりで部屋に来た」
「おいコラ」

ベッドに寄りかかって本を読んでいた工藤君は、床に転がる私に軽く蹴りを入れる。痛くないそれは、邪魔だということを示すようだった。
私は開いた本を閉じてゴロゴロと転がって工藤君の方へと近付く。工藤くんがドン引いてるなんて気にしない。

「君のお母さんに捕まってたんだから労ってよー…」
「赤井さんのことか?」
「えぇまぁ。いつ結婚するのーって」

高校卒業するまではしないつもりなんだけどね。そう言って工藤君を見れば、苦笑いをしていた。今は秀一さんはアメリカだし、絶賛遠距離恋愛中だ。遠い。遠すぎるよ秀一さん。

「高校卒業したら、結婚するのかよ」
「見送りの空港のときに迎えに行くとは言われたけど」
「卒業したら、か?」
「ん。あれ、あのとき工藤君いなかったっけ?」
「オメーがギャン泣きしてたことしか記憶にねぇ」
「え、そんなに酷かった…?」

恐る恐る工藤君に尋ねると、彼は興味無さそうにおー、とだけ返される。あれ、確かに空港で泣いたけどそんなに泣いただろうか。空港で起きた出来事が衝撃すぎて、イマイチ覚えていない。

「そんなに酷かったのか私……」
「でも仕方ないだろ?遠距離も国内じゃないんだし」
「まぁねー。…とうっ!」
「オイ」

転がった体勢から一度起き上がって、工藤君のベッドにダイブする。もういっそここで寝たいなぁ、と思いつつそのまま容赦なくゴロゴロと転がる。

「客間行けって言ってんだろうが」
「やーだー。ここで寝るー。もしくは客間まで運んでー」

携帯を持ってゴロゴロする私の上に、工藤君が乗る。色気なんてあったものじゃない。丸くなって抵抗するけれど多分工藤君が本気になれば私を持ち上げるなんてことぐらいは出来るのだろう。多分。それをされる前に、携帯でカメラを起動する。

「セクハラー」
「ふっざけんなよお前…!」

工藤君が私の携帯を持っていない方の手を掴んだ瞬間、カシャッ、とカメラのシャッター音が鳴る。え、と工藤君が固まっている間に、その写真を容赦なく秀一さんへと送りつけた。本文も何もなく、写真だけ。写真だけ見れば、私の腕を掴む工藤君が天井を背景に写っているから私を押し倒しているように見えるだろう。

「それどこに送りやがったテメェッ…!!」
「やだなー。一人しかいないじゃないですかー」
「ふざけんなよ…!消せ、今すぐ消せ!」
「もう送信完了してますー」

私の携帯を奪おうとする工藤君から携帯をかばいながら、布団の上でバタバタと暴れる。刹那、部屋に携帯の着信音が鳴り響く。その瞬間、ビクリと動いたのは工藤君。私の携帯は、鳴っていない。

「………出なきゃ死ぬと思うけど」
「出ても死ぬだろ…!?」
「仕事早いよねー」

工藤君の机の上で鳴り響く携帯。こっちの時間は夜で、もうそろそろ日付が変わりそうだ。そんな時間にかけてくる人なんて、ほとんどいない。だったらもう消去法でかかってくるのは一人だけだ。
覚悟を決めたのだろうか。私から離れて大きく息を吐き、諦めたように携帯を取った工藤君を見て私はお腹を抱えて笑った。

2016.06.01