未来を目論む
*灰原視点
いつものようにパソコンを扱っていると、上が騒がしくなったことに気付いて手を止めた。時間を見ると時計の針は前もって知らされていた時間だった。
(ちょっと、集中しすぎてたわね…)
パソコンの画面だけを消して、軽く背伸びをする。小さく息を吐いて階段を上がっていけば、ここに来ると言っていた彼女が博士と話している声が聞こえる。…工藤君の声は聞こえないけれど、いるのだろうか。
「あっ、哀!久しぶり!」
博士に出されたのだろうか。扉を開けるとふわりとコーヒーの香りがした。それと同時に、私とは違って年相応とも言える元気さで彼女は私に声をかけた。
「久しぶりね。工藤君は一緒じゃないの?」
「毛利先輩と鈴木先輩に捕まった」
「……大丈夫だったの?」
「鈴木先輩に笑いながら老けたわねって言われてたよ」
そりゃあそうだ、と思いつつ彼女の隣に座れば、博士が同じようにコーヒーを淹れてくれたので有難く受け取る。確かに何も知らない彼女らからすれば、江戸川君は随分と老けたように見えるだろう。実際は彼女らと同い年なのだけれど。
「大変ね、彼も」
「いいんじゃない?自分で選んだ道なんだし」
高校を卒業すると同時に本当に工藤君に嫁いだ彼女は、久しぶりの母国だからかどうやら少しばかりテンションが高いらしい。今なら箸が転がっただけで笑いそうだ、と思いつつコーヒーを口に運ぶ。
「それにしても、初めての帰国じゃない?」
「そうねぇ…。江戸川君、忙しくって」
「あら、まだそう呼んでたの?」
「もう無理無理。染みついちゃったよね」
今更他の呼び方出来ないって。そう言いながら、彼女は笑う。本人同士がいいのならいいけれど、一応は夫婦なのだからそれで本当にいいのだろうか、と思ったけど今のままの方が彼女らしいかもしれない。
「そういえば、工藤君が米花町に来るって結構大胆なことしたわね」
「あー…嫌がってたんだけどね。毛利先輩とかと会うかもしれないから」
「でしょうね」
彼が薬を飲んだ後、多分もうここには来れないと思う、と彼は言っていた。身体が元に戻っても、一応日本では工藤新一は死亡したことになっている。彼女らもそれは分かっているし、間違えることだってないだろう。けれど、彼の中には念のため、という気持ちがあったのかもしれない。
「でも、哀にはやっぱり会いたいし、言っておきたかったから」
「言っておきたかった?」
「んー…。江戸川君いないけどいっか。あのね、妊娠しちゃった」
「っ、」
さらっと言った彼女に、私は思わず吹きかける。…向こうの方で博士が吹いたのが視界に入ったけれど、見なかったことにしておこう。
大丈夫?と心配そうに言いながら彼女がハンカチを渡してきたとき、ガチャ、と音がして扉が開いた。そこにいたのは工藤君で、どうした、灰原?なんてのんきに言う彼に近付いて胸元を掴んだ。
「妊娠させたってどういうことよ」
「おまっ…名前、何言ってんだよ!」
「ノリと勢い」
「おいっ!!」
ギブギブ!!なんて声を上げながら、彼は両手を上に上げる。いっそのこと治験にでもしてやろうかしら、なんて思ったけれど、それをするのは名前に申し訳ないのでしないでおく。私は大きく息を吐いて、手を放して彼女の隣に戻った。
「ったく…まぁさせたのは事実だけどよ」
「いやー、江戸川君が酔った勢いでやっちゃったら大当たり。ビックリビックリ」
「酔った勢いって…まぁそうだけど。言い方あるだろうが」
「ま、普段からしてなかったけどね。避妊」
「貴方たちもうちょっとオブラートに包みなさいよ…」
聞くところによるとどうやら心当たりがあるのは工藤君が酔ったときらしい。それ以降は工藤君が忙しくてそんなことはしていなかった、と。夫婦だから別にいいのだけれど、親友をそういう扱いをしたのはあまり面白くないわけで。
(いっそホントに薬でも盛ろうかしら?)
私の隣でナチュラルにイチャつく2人を見ながら、盛るならどんな薬がいいかしら、と1人で思い始めた。
2016.02.09